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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第9話・最終話 栄光と正義 第4章

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04 だいぶ、問題だ

「何を今更」

 シレキは片眉を上げた。

「散々、それっぽいことを口走ってたのに覚えてないのか」

「え」

「ファローだの何だのとよ」

「……え」

「確信はなかったが、それこそ推測はついたさ。全く気づかんふりをするのも結構面倒だったが、お前が望んでたみたいだったからな」

 言っておくが、とシレキは手を振った。

「術師に答え合わせなんぞしてないからな?」

「……おっさん」

 彼はぽかんとした。

「意外と、鋭かったんだ、な」

「おい」

「あ、いや、ごめん」

「謝るな。謝られると、本気で言われてたことに気づいちまうじゃないか。そこは冗談に紛らわせるもんだ」

 ぶつぶつとシレキは言った。オルフィは苦笑した。

「まあいい。ライノンなら、ありゃ善意の塊みたいな男だ。特異点を探すためにこの件に首を突っ込んだってのはあるだろうが、突っ込まなくてもいいところまで何だかんだと率先して協力。最初は疑いもしたが、裏はないだろう」

「俺もそう思う。特異点を強めるならナイリアールの異界化を進めた方が都合よかったろうに、そんなことは考えてなかったみたいだった」

「獄界がやばいってのはだいぶ判ってたみだいだからな。後付けの知識にしちゃ身に染みてるみたいなところもあったが」

「染みてたんじゃないか?」

 オルフィは言った。

「これまでにも、ああしていろんなことに首を突っ込んできたなら」

「さもありなん」

 シレキは肩をすくめた。

「んで? 当のライノンは? まだ畔の村?」

「さあな。と言うか、意味ないだろ。厳密には〈移動〉術と違おうと、それに近いことをこなせる奴が『いまこの瞬間にどこにいるか』なんて」

「まあ、そうか」

 必要だと思えばやってくるだろう。こちらからは連絡が取りがたいが、いまのところ、彼に協力を仰がなくてはならないこともない。

 ジョリスに彼が行った「協力」のことについては、オルフィは知らなかった。知っていれば複雑な気持ちを抱いたことだろう。騎士の決断にも。ライノンの提案にも。それしかなかったと判っても。

 だが彼は知らなかった。ジョリスも言わないだろう。誰にも。

 何ひとつ告げることなく、騎士は最悪の事態を考え、その日のために支度をするだろう。若手の、そして後続の騎士たちに全てを託して。継ぐ者がいるから死に行くことができるという、彼の信念のままに。

「とにかく、アレスディアの力であの場所にいた化け物を追い払えたんだよ。獄界に押し戻したってことになるんだと思う」

「お前、簡単に言うが、大変なことだぞ」

 しかめ面でシレキは言った。

「別に簡単だったなんてことは言ってないだろ。大変だったよ。腕がちぎれるかと思った」

 彼はその後の「空中戦」のことも含めてざっと説明した。シレキは呆れた顔をした。

「またとんでもないことをやってきたもんだなあ」

「何だよ。まずいことやらかしたみたいな言い方されると不安になるじゃないか」

 今度はオルフィが顔をしかめた。

「まずかないさ。とんでもないってだけだ。そりゃ、ぐったりしてても当然だわな」

 どうやらこれは感心しているようだった。

「調子は? 見たところ、ちょっとだるそうではあるが」

「まあね。でもちょっと寝足りないかなって程度だ」

「んじゃ、寝てたらいいさ。当座だとしても、問題は解決したんだし、休んでて悪いこたあない」

「でも、まだ」

 彼は東方を見た。

「ラシアッドのことは、何も」

「前にも言っただろう。政治的なことには首を突っ込むなって」

「もう外交でどうにかなる問題じゃなくなってるだろ。ロズウィンドの野郎、ナイリアールをあんなふうに……」

 オルフィははっとした。

「王子! レヴラールは、どうしたんだ!? あの野郎、ナイリアン王家に復讐するみたいなことを」

「そのことだが……」

 シレキは表情を曇らせた。

「それが、だいぶ、問題だ」

「問題? どういう意味で言ってるんだよ。まさか」

「正直、問題にするのは難しいかもしれないな。何しろ、突拍子もなさすぎるだろう」

 苦々しげに誰かが言った。オルフィは顔をそちらに向け、目を見開いた。

「ちょ……ど、どうしたんだよ、それ」

「うむ。少々、油断をな」

「油断して、手足の骨折で済むようなら大したもんじゃないですかね。尖塔のてっぺんから落下した人が」

 口の端を上げてシレキが言った。両手両足に包帯を巻き、両脇に杖を抱えたレヴラールは、苦い顔を見せた。

その通りだ(アレイス)。俺は死んでいてもおかしくなかった……いや、死ぬところだった」

「尖塔から? まさかうっかり落下した訳じゃないよな? 問題ってのは」

 オルフィははっとした。

「ロズウィンドが」

 レヴラールは返答しなかったが、苦虫を噛み潰したような表情が答えを物語ってもいた。

「何てこった」

 ラシアッド王子がナイリアン王子を突き落としたなど、確かに大問題すぎて容易に問題にはできない。

「だから油断だと言った。まさかあのような直接的な手段に出てくるとは思わなかったものの……背中を見せるなどは」

「それにしても、まあ、よく、無事で」

 死んでいたなら、不自然でも事故死としか見えなかっただろう。人の入らない場所の補修を怠ったとして誰かが処罰を受けたかもしれないが、ロズウィンドの仕業だということにはならない。サクレン辺りが何か気づいたとしても、新参の魔術師の言うことなど誰も信じないだろう。

 そうしたことがぱぱっとオルフィの脳裏に浮かんだ。

「――ようだ」

 ぼそりとレヴラールは呟いた。

「ん?」

「助けられた、ようだ。かつてあの場所から、つまらない理由で、突き落とされた……娘に」

「な」

(メルエラ)

 その話だとすぐに理解した。

「霊的なものなど、あまり信じる方ではなかったが……あのようにはっきり顕現され、言葉を聞き、死から救われれば……信じぬ訳にもゆかぬ」

「何を聞いたんです?」

 シレキが問うた。

「だいたい、その娘ってのは」

「エクール湖の神子だ。信じがたいが、曾祖父は〈湖の民〉に反乱の嫌疑をかけ、滅ぼそうとしていたらしい。きっかけは祭事に神子を連れようとして拒絶されたことのようだが……」

 オルフィ、ヴィレドーンは痛い記憶に耐えながら聞いた。


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