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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第9話・最終話 栄光と正義 第4章

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03 人間みたいに

 はっと目を覚ましたとき、そこがどこであるのかオルフィは判らなかった。

 彼はその場所を知ってはいたが、目線が違うのだから仕方がないとも言える。部屋を知ってはいても、その寝台に横になったことは、ヴィレドーン時代を含めても、なかったのだから。

「気がついたか」

 ほっとしたような声は、知っている。

「中央広場でぶっ倒れてるお前さんを見たときぁ、死んでるかと思ってびびったぞ。何しろあの惨状だったからな」

「おっさん」

 シレキの顔を認め、オルフィは起き上がった。

「ここは? 城、か?」

その通り(アレイス)。どこに診療所の類があるのか知らんかったし、あの騒ぎで転んだだのって連中が押しかけていそうでもあったし、ちょうどあの場所に騎士様たちも駆けつけてきたんで、こっちに連れてきちまうのが手っ取り早いと思ったんだ」

 実際のところ、城は城でかなりの混乱にあったのだが、騎士らと行き合えたシレキは誰何を受けることもなく、オルフィを城の医師に見せられたのであった。

 もっとも治療の必要があったのは過去の時間で「ヴィレドーン」と争い、ラバンネルが魔術で処置をしてくれた傷――あれからオルフィの主観では睡眠時間を入れてもわずか半日だ――くらいであった。もちろん本当に落下したのでもなかったから、骨折や内臓損傷はもとより、打ち身すらない。

 ただ、かなりの疲労感があった。まるであの巨人と、ひとりで何十分(カイ)も戦ったかのようだ。

「――カナト! そうだ、おっさん、カナトは」

 はっとして彼は叫んだ。

「そこだ」

 くいっとシレキは親指で彼自身の後方を指した。

「えっ、ど、どうしたんだよ!?」

 オルフィは焦った。カナトはもうひとつの寝台に横たわって瞳を閉じていた。

「どうもこうもない」

 シレキは肩をすくめた。

「疲れたんだろ。眠らせとけよ」

「あ、そういう、こと」

 すとんと肩から力が抜ける。

(疲れたから、休んでる)

(普通の、人間みたいに)

「怪我は平気なのか?」

「確かに負傷はしてるが、治療済みだ。何しろお城の先生と神殿の偉いさんの両方が診てくれてたから平気だろ」

「そう、か」

 ほうっと力が抜ける。

「何があったんだ?」

 オルフィが再びシレキを見て問いかけると、男は目を三角につり上げた。

「それは! 俺の! 台詞だ!」

 ほとんど耳元で怒鳴られ、思わずオルフィは耳をふさいだ。

「ナイリアールに着いたと思ったらすっ飛んで行っちまって……あの瘴気のなかじゃ、お前の気配も追えなくて苦労したんだぞ」

「ごめん」

 素直にオルフィは謝った。

「でもジョリス様を助けないとって思ったら、さ」

「ああ、判ってる判ってる。結果、騎士様と一緒に魔物を追い払った。大したもんだ。本気で言ってんだぞ」

「アレスディアの力だよ」

 彼は言って――はっとした。

「うえっ!?」

「そんなに慌てるな。籠手はここだよ」

 シレキはすぐ傍にある棚を示した。そこには一対の籠手が無造作に置かれている。

「え……」

「一応、怪我がないか確かめるためにな、外してみようとしたら簡単に外れた。役目は済んだってとこかね」

「ああ……まあ、外せるんじゃないかとは、思ってたけど」

 それにしてもあっさりだ、とオルフィはぽかんとした。あんなに苦労したのに、気づけば外れていたとは。次には乾いた笑いが浮かぶ。

「ま、あれだ」

 オルフィは意味のないことを呟くと、手を伸ばしてアレスディアをぽんと叩いた。

「お前も……お疲れさん」

 もちろん、籠手は返事をしない。オルフィとてそんなものは期待しなかった。

 ただ、思ったのだ。まるで戦友に対するように。

 一緒に生き残ってよかったな、と。

 そんな彼の様子にシレキがにやにやしているのが判った。こほんとオルフィは咳払いをする。

「右手の分はジョリス様が持ってたらしいな? どういうことか聞いたか?」

「あ、いや。時間がなくて」

「それもそうだな」

「でも、推測はつく」

 オルフィは言った。

「アバスター……ミュロンさんは畔の村にいた。彼が持ってきていたにせよ、サーマラ村に置きっぱなしだったにせよ、あの状況で籠手をジョリス様に届けられる人物なんてそうそういない」

「ラバンネル術師のことか? 何度も言ってるが、術師は現状、〈移動〉もままならないぞ」

「判ってるよ。だから、もうひとり、いたろ」

「成程」

 シレキはうなずいた。

「ライノンか」

そう(アレイス)。魔術師でもないのに魔術みたいな力を使う。人外でもない。紛れもなく人間。稀に、魔術じゃなく独特の力を持つ人間もいるらしいけど、そういうのとも少し違う。それに」

 オルフィは両腕を組んだ。

「何て言ったらいいんだろう……巧く言葉にならないや」

「まあ、判る気がする」

 シレキはうなった。

「あいつは、()だ。明らかに人間なのに、何か違う。俺も、それくらいしか言葉が見つけられんが」

「味方についてくれたからよかったけど、もし敵だったら厄介だったと思う。何しろ、彼はひとり(・・・)しかいない(・・・・・)

「ふむ」

 シレキは「そんなのは俺やお前だって同じだろう」とは、言わなかった。彼にも判ったからだ。

「そういうことだな。独特であるが故に法則が掴めず、能力の推測もつかない。何なんだろうな、ありゃ、一種の突然変異みたいなもんかねえ」

「あれ」

 オルフィは目をしばたたいた。

「おっさん、判ってないのか」

「何だと? 生意気な。お前は何が判ったって言うんだ」

「だから、巧く言葉にならないんだって」

「してみろ。腹の立つ」

「うーん」

 今度はオルフィがうなる。

「突然変異じゃない。だって、彼はここ(・・)で生まれたんじゃない。……これで、どう?」

 それは「ナイリアン」という意味でも「アレンズ地方」という意味でもなかった。ラスカルト大陸でも――他大陸でも。

「……ああ、成程」

 ぽつりとシレキは呟いた。

「それで特異点やら……帰らなくちゃならないやら」

「通じた?」

「何となく、だが。お前が推測できたのが驚きだ」

「何だよ、それ。俺だってそれなりに知識、あるんだからな。ちょっとずるだけど」

「ずるって何だ」

「だって、俺の知識って感じがしないもんな。そりゃ、必死こいて勉強したのは俺なんだけど、同時に俺じゃなくて」

「ああ。騎士時代の記憶のことか」

「うん。……って、えっ!?」

「何だよ、今度は」

「だ、だって」

 オルフィは焦った。

「騎士、時代って」


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