表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第9話・最終話 栄光と正義 第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

461/520

08 守るべく

「だが無論、護衛が無駄だなどということはない」

「ひとりは王城に残る必要がありますね」

 パニアウッドがうなずいた。

「どこが危険かは判らない。どこにどんな種類の力が必要とされるかも」

「勘と運、というところですか」

 ノイシャンタは顔をしかめた。

「いや、やはり王城が最も危険なのでは」

「危険は判らぬな。しかし、最も重要な場所であることは間違いない」

「では――」

 ナイリアンの騎士たちは、その首位たる〈白光の騎士〉に視線を集めた。

「いや」

 だがジョリスは首を振った。

「王城は、ホルコス殿に」

「え……」

 思わぬ指名にホルコスは目を見開いた。

「し、しかし」

「ジョリス殿が残られるのが妥当では」

 騎士たちは戸惑った。

 それは白光位こそ相応しいということもあれば、ジョリスの快復を疑っていたということもあった。邪推という意味ではなく、案じていた。どんな形であれ無理をしているのではないかと。

 もちろん王城とて先ほどの話のように危険だが、ほかの兵士もいるし、サクレンやギネッツアもいる。そうした考えもあった。

「私は、二線が交差する中心の場所に赴こうと思う」

「それは……」

 危険の度合いは判らない。それは先ほども話したことだ。

「東西南北にあるのは既知の危険だ」

 長い棒を使って卓上の地図を示しながらジョリスは言った。

「守護の能力は未知数ながらも、剣を振るって対抗できる脅威。たとえ分が悪かろうと戦うことができる」

 〈白光の騎士〉は彼らを見回した。

「城は難しいところだ。悪魔が本気で力を振るったなら、もとより、いまこの瞬間にでもナイリアン王家が途絶えかねない。対抗できるのかとなると、それは騎士がどうのではなく、『人の身に可能なのか』という話になってくる」

 きゅっとホルコスが両の拳を握った。

「そして中心」

 とん、とその場所を叩く。

「ここは全くの未知数だ。何も起きないかもしれないが、ほかの全てを合わせたよりも重大な局面が訪れる可能性もある」

 それはサクレンの言葉でもあった。騎士たちは真剣な顔をする。

「対抗できる手段が?」

 遠慮がちにノイシャンタは尋ねた。

「何かお持ちだから、そこに出向くと言われるのか?」

「――確実とは言えない。しかし可能性はあるだろう」

 静かにジョリスは右腕を撫でた。そこに壮麗な青い籠手があることはみな気づいていた。

「アバスターの籠手、〈閃光〉の銘を持つアレスディアだ。大導師と呼ばれた強大な魔術師ラバンネルの術が込められている」

「おお……」

 英雄アバスターは、彼らにとってさえ憧れだ。騎士たちは状況にもかかわらず感嘆の吐息を漏らした。

「何故、ジョリス殿がそれを?」

「アバスター殿に託されたのか」

「厳密には、アバスター殿から直接という訳ではない。ラバンネル殿でもない。ただ、彼らの意思を伝える人物から受け取ったとだけ言おう」

 ジョリスとて、無駄に危険に飛び込むつもりはない。それは彼の役割ではあるが、彼よりも巧く果たせる者がいるなら託すべきだ。

 ただ、彼らが危惧する点――何かしらの方法で無理をしているのではないかという――それについては的外れであること、誰より自分が知っている。

 ハサレックが訝しんだ、或いは案じた、「契約」。邪なものではないと返してきたのはごまかしではなく事実だが、では()なのかという段になると多くの知識を持つ〈白光の騎士〉にも判らなかった。

 だが判った。

 自分自身に(・・・・・)力を借りる(・・・・・)という矛盾(レドウ)について解釈するのは魔術師にでも任せるしかないが、どうであれ、危険なものではない。そして、あの人物についても。

 奇妙だが、信頼できると感じた。

 それはアレスディアを託されたせいばかりではない。

 誤解を怖れずに常に正直なことを語ったその人物に彼は誠実さを見た。

「しかし、いかに英雄の籠手、魔法の品ということであっても」

 マロナは危惧を示した。

「誰かが行かねばならないことは同じだ」

 そこでシザードが言った。

「籠手の助力がどの程度あるものかは、我らには判らない。ジョリス殿も正確にはご存知でない様子だ。だが」

「そうですね」

 こくりとパニアウッドもうなずく。

「中心はジョリス殿にお任せしましょう」

 危惧は変わらずあった。しかしそれは誰がどこに向かおうと同じこと。話は最初から変わっていない。ホルコスは少々不安そうだったが、見せまいと表情を引き締めた。

「相手は人ならぬ者だ。一対一で戦わなかったなどとそしりを受けることはない。各隊から兵を連れよ。数名がいいだろう」

「名誉ばかりを守って死んだ上、街も守れぬなどとあっては醜態もよいところだからな」

 ノイシャンタがうなずいた。

 彼らにとって名誉は大事なものだが、それでも誤ったこだわり方によって街を危険にさらす方が不名誉であること、彼らは理解していた。

「杭には直接手で触れぬように、とのギネッツア神殿長のお言葉だ」

「では、傷むことを覚悟で、剣を使いますか」

 シザードが言った。

「その辺りがよさそうだな」

 騎士たちはうなずいた。剣は彼らにとって誇りの象徴でもあるが、折ってでも戦う必要があればそれを躊躇うことはなかった。

「正確な各地点及び中心地はそれぞれここになる」

 改めてジョリスは卓上の地図を長い棒で指した。

「ノイシャンタ殿は北に。マロナ殿は南。シザード殿に東、パニアウッド殿に西をお任せしたい。そしてホルコス殿は王城を」

「はっ」

「必ず」

「承知した」

「お任せあれ」

「やり遂げましょう」

 それぞれの返答は短くとも、強い決意に満ちていた。

「この状況ではあるが、神殿にはいつも通り、正午の鐘を鳴らしてもらうことになっている」

 ジョリスは神殿街区を指した。

「それが件の杭を壊す合図だ」

「つまり、それまでに守護を倒す必要がある、と」

 マロナが確認した。

その通りだ(アレイス)

「中心のジョリス殿は、その後にも警戒をしていただく必要があるという訳か」

 果たしてそこで何が起きるものか。何か起きるものか。少なくともジョリスは未知の危険が起こり得る可能性を重視し、最大限の警戒をしている。

「いったい何が出るものやら」

 シザードは口の端を上げた。

「何であろうと、守るべく戦うのみだ」

 指し棒をしまってジョリスは言った。

「――以上だ」

 首位騎士は説明を終えたことを示した。これだけの情報で、彼らは危険に対処する。それが務めだからだ。

「魔術師協会からはサクレン導師、八大神殿からはギネッツア神殿長が全面的に協力して下さる。とは言え、手探りかつ危険な任であることは変わらない」

 ジョリスは静かな口調で言った。

「知っての通り、いまや青銀位はなく」

 内に浮かぶものを彼は完璧に隠してみせた。

「サレーヒ殿も異国という現況。ナイリアンの騎士はいま、誰ひとりとして欠けられぬ」

 彼はひとりひとり、騎士たちを見回した。騎士たちもまた、真剣なまなざしでそれを受け止めた。

「任を果たし、生きて戻れ!」

「はっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ