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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第8話 絡み合う軸 第4章

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01 皆無ではない

 おやおや――と、遠い地で、悪魔が笑った。

「思ったより早くはじまったようだよ? 君の〈蘇り人〉は、もう消されてしまったらしい」

「私の?」

 ロズウィンドは片眉を上げた。

「貴殿の、ではないのかな、ニイロドス殿」

「玩具職人は、その玩具の所有者じゃないだろう?」

 というのが悪魔の答えだった。

「僕はあれを君にあげたんだ。遊び方は君次第だった」

「成程。そうした視点もあるものだ」

 王子は納得したようにうなずいた。

「『魔術師』という玩具、貴殿流に言えば駒、私も持っておきたい気持ちがあった。金で雇っても信頼はできないし、人形であれば安心して遊べるかと思ったんだが、危険が少ないということは実入りも少ないものだ」

 仕方ないと彼は言った。

「しかし、はじめから玩具を壊すような遊びをしていても怒らない職人、というのも寛大だな」

「まあね、そのたとえは適切ではなかったかもしれないね」

 くすりとニイロドスは笑った。

「では研究家とでもしようか。モノ自体がどうなるかには興味がない、適宜刺激して、それがどういう経過と結果をもたらすかを楽しみにしている。これでどうかな?」

「『人間研究家』か」

 王子は両腕を組んだ。

「私もハサレックもオルフィも、貴殿が弄り回している『モノ』という訳だ」

「君はそんなことくらい、知っているだろう?」

「もちろんだとも。新しいたとえだったから、新しく置き換えてみただけ。『観察者』や『道化』より近いようだ」

 少しずつ刺激を与えたり、環境を整えたり、条件を変えて対象を見守る。そうしたところが似ているとロズウィンドは言った。

「そうだね。僕はもっと見たい。ハサレックがジョリスに対して見せる複雑な葛藤も美しいが、君も」

「私の? 私が何に葛藤していると言うのか?」

 ロズウィンドは少し目を見開いた。

「私には迷いなどない。祖先から引き継いだ悲願を果たすだけだ」

「ふふ」

 ニイロドスは薄く笑った。

「正統なる王者……君の行動は正義……本当かな? ああ、もちろん、奪われた土地を取り戻すのは正義だ。多少の犠牲を伴ってもね」

「何が言いたい?」

 本当に判らないと言うように彼は首をかしげた。

「私が犠牲に心を痛めていると?」

「いいや、そんなことじゃないさ」

 悪魔は首を振った。

「――君が、ラシアッド王家に長々と続く『悲願』を果たそうとした、本当の理由」

「本当の?」

「ふふ、恍けようとしても無駄だよ。僕は何でも、知っているんだから」

「何でも」

 繰り返してロズウィンドは首をかしげた。

「では聞いてみようか。いや、ぜひ聞いてみたい。まるで貴殿は、私も知らない私の動機を知っているようだから」

「ふふ……」

 悪魔の様子は実に楽しげだった。

「すっかり、国王同然だけれど。お父上の様子はどうなんだい?」

「父?」

 彼はさっぱり判らないというふうだった。

「体調はずっと思わしくない。体力は低下していくばかりで、医師の見立てでは、戴冠式に間に合うかどうかということでもある」

 嘆息して王の息子は首を振った。

「追い払えぬほどの病の精霊(フォイル)に憑かれてしまっては、仕方がないことだ。父の命がある内に〈はじまりの地〉を取り戻したいとも思っているが」

「そうだろうね」

 悪魔はうなずいた。

「父上には、見せたいよね。君の勇姿」

「そうだな。見ていただければ誇らしいだろう」

「だよね」

 意味ありげにニイロドスは繰り返した。

「母上が亡くなっているのは、残念だよね」

「――ああ、そうしたことを言いたい訳か」

 判ったと彼はうなずいた。

「貴殿には隠しても仕方がないだろう。私はあの女を軽蔑していた。地位故に人々がかしずくことを理解しておらず、自分の『魅力』になびかなかった男に不義の疑惑を着せて社会的に殺した」

 ふんと王子は鼻を鳴らした。

「いや、その以前から。王妃に相応しくない女だと思っていたが」

「おやおや」

 くすりとニイロドスは笑った。

「ご母堂だろう。君にもその血が半分――」

「エクールの血だ」

 彼は遮った。

「私が受け継いだのは愚劣な両親の血などではない」

「そう。うん、そうだよね」

 楽しげに悪魔は同調する。

「誰も信じなかっただろう。ルアムが王妃を襲うなど。だが国王ですらろくに調べを進めず、彼を罰することを躊躇わなかった。何故か? 王妃の名誉ということもあれば、ちょうどよくもあったからだ」

 彼は肩をすくめた。

「ふふ……君にたくさんのことを伝えた教師は、第一王子に危険思想を植え付ける人物と認識された訳だね」

「ラシアッドがエクールの栄光を取り戻すべきだという思想は彼が以前から持っていたものだ。知った上で雇い入れたはずだが、私はもとよりラスピーシュまでがルアムに懐いたのが気に入らなかったのであろうな」

「本当は」

 ニイロドスはじっと彼を見た。

「仇討ちの気持ちがあるんだろう?」

「――皆無ではない」

 小さく、ロズウィンドは言った。

「だが全てではない。きっかけのひとつに過ぎぬ」

「ふふ」

 悪魔は笑みを洩らす。

「そう」


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