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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第6話 静かなる魔手 第3章

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12 粗相のないように

「オルフィ殿だったな」

「は」

「今日の夕餉を一緒に取らないか」

「……は?」

 突然の言葉にオルフィは口を開けた。

「非公式のものだ。私にも予定が詰まっている故、簡単なものになるが」

 いかがかな、とロズウィンドは笑みを浮かべた。

 断る理由もないが断れるはずもない。

「は、はい、有難くお受けいたします」

「固くならないでくれ。ラスピーシュの友人なら私にも友人同然だ。あれと同じように接してくれてかまわない」

 何とも寛大に第一王子は言ったが、「同じように」はいろいろな意味で無理というものだ。

「そのような真似をしてはクロシア殿に叱られます」

 首を振ってオルフィは言った。ロズウィンドは目をしばたたき、それからまた笑う。

「成程。クロシアは気難しいからな」

 その言葉にオルフィも成程と思った。

(第一王子にもあんな調子なのかな、あいつは)

「少し肩の力が抜けたようで何よりだ」

 ロズウィンドはオルフィの軽口を理解した。

「ではあとで迎えを寄越す。半刻程度経ってからになるだろう」

「承りました」

 彼はもう一度礼をしてロズウィンドを見送った。

「……ふう」

 扉が閉ざされて、息を吐く。

「驚いた」

「いや、全く」

 シレキもうなった。

「殿下の来訪にもだが、お前、それなりの口もちゃんと利けるんじゃないか」

「あ?」

「レヴラール殿下にはぞんざいな態度だったくせに」

「あー……あれは少々、あいつに引っかかりがあったもんだから」

 もごもごと彼は言った。

「でもそれだけで、礼儀くらい、わきまえてるさ」

「そうらしいな」

 何だかシレキは感心しているようだった。

「なかなか決まってたぞ。どこで覚えたんだ?」

「何が?」

「だから、こういうの」

 シレキは宮廷式の礼を真似て見せた。正直、いささか不格好だった。

「ああ、それは」

 先ほど答えに迷ったところでロズウィンドがやってきたが、結局何かしら返答をひねり出さなくてはならなくなった。

「それは、ちょっとばかり王城にいる人間と絡んだことがあるんだよ」

「お前が?」

「俺って言うか……その」

「ああ、そうか」

 そこでシレキは納得してそれ以上追及しなかった。

「まあ、しかし、ロズウィンド殿下は俺のことはちらっと見ただけだったな。実際、ラスピーシュ殿下のご友人じゃないが」

「俺だって友人とは言い難い」

 オルフィは眉をひそめたが、シレキは手を振った。

「お前の気持ちはどうあれ、公称(・・)はそういうことになってんだ。あの様子じゃ、兄上殿は他国で弟がおいた(・・・)をしてなかったか知りたいんだろう」

「ああ、あるかもな」

 オルフィは納得した。そんなことでもなければロズウィンドが彼を誘う理由が思いつかない。

「そういうことなら俺が行っても意味ないな。ラスピーシュ殿下のことはほとんど知らんのだし」

「だから、俺も知ってる訳じゃないってば」

「もとより、言ったろ。ロズウィンド殿下は俺のことを従者か何かとしかお思いでない。俺は誘われてないだろうよ」

 行ってこい、とシレキは手を振った。

「ただしくれぐれも」

「余計なことには口を挟まない」

 片手を上げ、まるで誓うようにオルフィは言った。

「せいぜい、こんなことになって驚き困ってる田舎の若者でも演じるよ。半分くらいはまさしくその通りだしな」

「なら、さっきみたいなのは気をつけろよ」

 シレキは忠告した。

「下手くそな礼ができるよう、練習しておけ」

 にやりと言われ、オルフィは苦笑を返した。

 予想通りと言おうか、そのあと彼らは風呂の案内を受け、オルフィにはまた新しい服が用意された。「王城に入れる程度のもの」では「第一王子殿下との夕餉」には向かない、または品格が足りないというところなのだろう。

 もっとも普段着からある程度以上良質のものになってしまうと、もう「どれくらいよいものか」区別がつかない。

(何て言うか……着やすい)

 若者はそんなふんわりとした感想しか抱かなかった。幸いにしてと言うか、非公式の食事のためか、用意された服装に派手なところがなかったためもある。

 これまた予想通り、シレキには案内はなかった。だが彼はその間書庫で本を読むことにすると言ってオルフィと一緒に部屋を出た。

 その途上でのことである。

「……あれ」

 オルフィは目をしばたたいた。

(いまの娘、どっかで見たような)

 廊下の向こうを横切ったのは彼やリチェリンと同じくらいの娘だった。侍女の服を着ていたようだ。

「何だ?」

「あ、いや」

 オルフィは手を振った。

「ちょっと見たことあるような子がいてさ。いや、誰かに似てたってだけだと思うけど。侍女みたいだったし」

「ほーお」

 シレキはにやっと笑った。

「リチェリンに言いつけてやろう」

「ちょっ、何を馬鹿なことをっ」

「あの子もいい子だがなあ、神女見習いじゃいろいろ、あれだろう。ここじゃお前は『王子様のご友人』なんだし、声をかけてみたら案外いけるんじゃないのか?」

「やめろよな」

 顔をしかめてオルフィは言った。

「俺は、そういうことは、しません」

「ほほう?」

「その顔、やめろって」

 にやにや笑いを浮かべるシレキに、オルフィはしかめ面で手を振った。

「図書室は向こうだったな。じゃ、俺は行く」

「ああ、またな」

「しっかりやれよ」

「何をだよ」

「粗相のないように、だよ」

 片目をつむって男は言った。これはいまの場合、「あまり上手にやりすぎないように」である。

「判ったよ、あんがと」

 少し笑ってオルフィは礼を言い、図書室へ向かったシレキと分かれた。


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