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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第4話 悪魔の導き 第2章
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11 何でそこまで

 少年は目をぱちくりとさせ、いまの言葉にほかの意味がなさそうか探した。

「何を困ってるんだ。ほかの意味なんかないぞ」

 男は鼻を鳴らした。

「聞こえなかったのか? もう一度言う。カナト」

 シレキはずいっと少年に近寄った。

「服を脱げ」

「いっ、嫌です!」

 近寄られた分を飛び退いて、少年はローブの前を合わせた。

「この大変なときに何を言い出したんですか、あなたは!」

「いや、何もいま思いついた訳じゃない。前から考えてたんだがな」

「ま、前からって」

「正直、オルフィがどう出るか判らんかったからな。あいつがいないいまはちょうどいい」

 言いながら男はまた近寄り、少年の肩を掴んだ。

「カナト。見せてくれ」

「なっ、な、何をですかっ」

「何って、そりゃあ」

 それは彼らがオルフィを追って――もちろん、彼らはオルフィを探した――畔の村を離れ、数日経った頃のことだった。

 最初の四つ辻で彼らは迷ったが、往路で利用した宿場町が近くにあったことを思い出し、とりあえず南下してオルフィの消息を尋ねてみた。そこで彼らは「立派な馬に乗った若者」の話を聞くことができた。

 何故オルフィが馬になど乗っているのか、背格好が似ているだけの別人ではないのかともふたりは話し合ったが、ほかに手がかりもない。まずはその若者が更に南へ行ったという話を追いかけてみることにした。

 カナトはシレキが呆れるほどオルフィを案じていた。

 確かにオルフィの様子はおかしかったし、長老がほのめかしたことも気になる。だが「長老がほのめかしたこと」ならカナトは自分自身のことだって考えなければならないだろうに、オルフィ、オルフィ、オルフィだ。

「何でそこまで心配するんだ?」

 と、男はそれを疑問に思って、繰り返し少年に尋ねていた。

「シレキさんは心配じゃないんですか!?」

 というのが少年の答えになっていない答えだった。

「いやな、だから、前から不思議に思ってたんだ。最初に会ったのは三年前かもしらんが、つき合いは短いんだろう? まあ、好奇心で首都くらいまではついて行くのも判るし、籠手やらラバンネル術師やらの話で魔術的興味をそそられてもおかしくはないが」

 少し前、彼らは改めてその話をした。

「魔術的興味なんかじゃありません。それも皆無じゃないですが、言うなれば余禄で、たとえばただ探し人が遠いところにいるという話だったとしても僕はオルフィについてきました」

「だからそれが不思議だと」

 ううんとシレキはうなった。

「三年前の恩ったって、オルフィは荷運びをしただけだろう? お前が恩を感じるべきは、母親の形見をあいつに託したどこかの魔術師じゃないのか?」

「その人にも恩は覚えますけど、どこの誰かも判りませんから」

「そう言や」

 シレキはぽんと手を叩いた。

「お前さん、出身はどこなんだ?」

「え?」

「南西部じゃないんだろ?」

「ええ、まあ」

「どこだ? こっちの方だったりするのか?」

「どうしてですか?」

「いや、何となく」

「別にこっちじゃありませんよ。南の……」

 少年は行く方角を指した。

「南の、方です」

「カーセスタの近く?」

「近いってほどでも、ありませんでしたが」

 思い出そうとするようにカナトは目を細め、それから首を振った。

「いえ、嘘です。と言うか、判りません。首都の魔術師協会へ行くのに道を北上したという記憶はあるんですけど、故郷の村がどの辺の位置にあったのかは、よく」

 判りませんと少年は繰り返した。

「そんなもんか。じゃあ、帰りたいとかは」

「思わないですね、ちっとも」

「しかし、母親の形見は大事だ」

「大事じゃありませんか? 普通」

「こう言っちゃ何だが、お前さんを捨てた親だろ?」

「シレキさんは捨てられたんですか?」

 目をぱちくりとさせてカナトは質問を返した。シレキもまばたきをした。

「何?」

「そんなふうに言うということは、シレキさんも子供の頃に魔力を発現して親元から引き離されたのかなって思ったんです」

「ん? まあ、どうだったかな」

 男は頭をかいた。

「昔すぎて、忘れちまったよ」

「そういう言い方が許されるなら、僕もです」

「おい」

「本当ですよ。シレキさんはごまかしたのかもしれませんけど」

「ごまかしてなんかいないぞ。お前、四十男の健忘を舐めるなよ」

「そういうのは『舐める』とは言わないと思います」

 少年はもっともな指摘をした。

「普通は少々忘れっぽくなっても、忘れるのはごく最近のことで、昔のことはよく覚えていたりするものですけど。ただ健忘は年齢のせいですから、もし本当でも気にしない方がいいですよ」

「慰めるな。それほど年じゃない」

「どっちなんですか」

「忘れたことは本当だが、日常的に物忘れが激しくなって困っているというほどじゃない」

「それは、これまでの旅路で判ってます」

 少年は切り捨てた。

「それにしてもどうして僕がオルフィを心配したら不思議なんです?」

「簡単に言えば、動機が不明瞭ってこった」

「友だちが心配だ。この上なく明瞭だと思いますよ?」

「だから、長年の友だちじゃないだろうってことで……まあ、もういいわ」

 カナトが「時間の長さではない」などと言おうとしていたとしても、それより先にシレキが引いた。


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