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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第3話 裏切りの騎士 第1章
113/520

10 強まっています

「昨夜は術が切れてたんだろうか」

 カナトの術は籠手の力もいくらかは抑えるという話だったはずだ、とオルフィは思い出した。

「眠っている間は心配ないと思ったので、かけ直さなかったんですよね」

「あ、そうか」

 確かにカナトは毎朝、例の術を施してくれている。

「じゃ昨夜のことは特殊で、かけ続けててもらえば大丈夫か」

 ほっとしてオルフィは呟いた。

「判りません」

 しかし返答はつれなかった。

「判らないって、何で」

「だってオルフィ。考えてもみて下さい。最初は腕だけ、昨夜は全身」

「……え」

 カナトの言わんとすることが判ったような気がした。

「籠手の力は明らかに強まっています」

 案の定、少年は真剣にそう告げた。

「だから術の強化が必要かもしれないと言ったんですよ。もっとも僕の魔力でラバンネル術師のそれに対抗できるかどうかは……」

 判りません、と少年魔術師はまた言った。

「そ、か」

 オルフィはそうとだけ言い、しばし黙った。カナトは居心地悪そうにもぞもぞと動いた。

「すみません。至らなくて」

「え? あっ、違う違う、そうじゃない」

 慌てて彼は手を振った。

「考えてたんだ。黒騎士が、おかしなことばかり言ったんで」

「おかしなこと?」

「ああ。俺が籠手に相応しくないっていうのはその通りなんだけどさ」

 彼は「最も資格がない者」と言われたことや、刃を合わせるのが楽しみだと言われたこと、エクールの神子云々という意味の判らない話をされたことを伝え、誰かと取り違えられているのではと推測したことまで話した。

「成程。『最も資格がない』というのは確かに、誰かしら個人を想定した言い方に聞こえますね。オルフィが気にしていた『戦い手ではないから』という理由とは違う」

「だよな」

 賢いカナトに同意されて、オルフィは自分の考えに自信を持った。

「それで俺、考えたんだけど」

 彼は両腕を組んだ。

「俺が間違えられた誰か。それは少なくともあいつの味方じゃなさそうだった」

「剣を合わせることが前提なら、そうでしょうね」

「で、そもそも、あいつが誰かってことなんだけどさ」

 オルフィは頭をかき、少しうなって、考えを口にしていいものかどうか迷った。

「あの、さ。ヒューデアと話してたとき、カナトが言ってたろ。『裏切りの騎士』のことについて」

「ヴィレドーンですか」

「そう。それ」

 うなずいて彼は顔をしかめた。

「何だかぞっとする名前だ」

「前にもそんなことを言っていましたね」

「カナトはそう思わないのか?」

「もしかしたら最初は思ったかもしれません。〈名前は運命を作る〉などと言うように、人は『名前』と密接に結びついていますから」

 怖ろしいことをしでかした人物の名であれば、その出来事と自然と結びつく。それは「そういう人物の名だと知っているから」ではなく、たとえ知らずとも。いや、もしまだその人物が何も引き起こしていなくとも。少年はそんな説明をした。

「何も引き起こしてなくてもっていうのは言い過ぎじゃないか」

 遠慮がちにオルフィは尋ねた。

「だってそれじゃ、名付けられたときから何かしでかすことが決まってるみたいだ」

「逆ですよ」

 魔術師は肩をすくめた。

「そうした〈定めの鎖〉に結ばれているから、そう名付けられるんです」

「……それって」

「前にも言いましたね。考え方のひとつで、僕はどちらかと言うと否定派でした。ですが」

 少年の瞳がオルフィの目を捉えた。

「もしかしたらそういうこともあるんじゃないかと考えるようになってきています」

「運命が定まっていること?」

「ええ」

「うーん」

 オルフィは顔をしかめた。

「やっぱり俺には、そうは思えないよ。思いたくないって言うか」

「『答え』なんて判りませんからね。各人が好きなように考えたらいいと思います」

 どこかあっさりとカナトは返した。オルフィはまたうなった。

「それで、ヴィレドーンがどうしたんですか?」

「あの、さ」

 ううん、と彼は三度(みたび)うなる。

「ヴィレドーンっていうのはアバスターが倒したんだよな」

「そう言われていますね」

「倒したってのは、死んだってことだよな」

「普通に考えればそうです」

「じゃあ」

 彼は指を一本立てて口を開き、そのままとまった。

「どうしたんです、いったい」

 カナトは目をしばたたいた。

「……あの黒騎士がヴィレドーンだ、なんてこと、あると思うか」

 ぼそぼそとオルフィは言った。

「何ですって?」

「いや、悪い。ないよな、死んだんだもんな、三十年も前に」

 慌てて彼は手を振り、前言を取り消す仕草をした。

「いったいどうしてそんなことを考えたんです?」

 否定も肯定もする前に、カナトはまた目をぱちくりとさせながら尋ねた。

「あいつ、アバスターを知っているみたいなことを言ったんだ。『話に聞いて知ってる』んじゃなくて、直接会ったことがあるみたいな」

「具体的には何と?」

「俺が、って言うか、あいつが考えている誰かってことだけど」

 オルフィは前置きをした。

「この籠手を使っていることを知ったらアバスターはどう思うかな、とか何とか」


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