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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
第2話 大導師の影 第4章
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11 それとこれとは

 とりあえず、シレキがラバンネルではないことは判った。

 もっとも、初めから判っていたとも言えるが、本物のラバンネルを知る人物の話を聞けた。いまどこにいるかという情報には繋がらなかったが、三十年前よりは最近の話だというのが心強い。

 それに、思っていたほど年寄りでもないということだ。どこかで生きているという望みはぐんと増えた。

(こんなことが判ったのはおっさんのおかげだよな)

 ヤクタスに話を聞けたのは尋ねたカナトの功績でもあるが、シレキがいなければヤクタスから声はかからなかった。

(クートントの件と、そのことは感謝してもいい)

(……うん? 結構、助かってる?)

 会って一刻程度で二回も助けられたと思えば、シレキの存在は役立っていることになる。

(いや、その考えには納得がいかない)

 オルフィは否定することにした。

 年下に助けられるよりは年上にそうされる方が自然と言えるし、抵抗も少ない。しかしオルフィとしては、シレキに助けられるよりはカナトの方がいいと言うか、素直に礼が言える。

「面白い爺さんだったな」

 オルフィはヤクタスの話をした。

「何だかミュロン爺さんを思い出した」

「オルフィもですか。僕もです」

 ミュロンの弟子は笑った。

「お師匠、ちゃんと食事してるかなあ」

「以前は自分でやってたんだろ? 大丈夫だって」

 オルフィも少し笑った。

「そう言や、ミュロン爺さんにも何とか連絡しなきゃな」

「お師匠に用事ですか?」

「君のことでだよ」

 こつんとオルフィはカナトの肩を小突いた。

「えっ?」

「俺は言うなれば、ミュロンさんからカナトを預かってるんだ」

「そんなことないですよ」

「それが、あるの」

 若者は手を振った。

「カナトは頭いいし優秀だけど、それでもやっぱり未成年なんだからな。俺は君を守る立場だよ。あ、年齢しか勝てないから言ってるんじゃないぞ」

 わざわざそんなことをつけ加えたのは逆に、そうした思いが少々存在するからでもあった。

「だけど手紙なんて俺は書けないから……」

「僕が書くんですか?」

「やってやれよ。爺さん、心配してる」

「大丈夫だと思いますけど」

「そういうのはだな、親の心子知らずと言ってだな。まあ、俺も想像でしかない訳だが」

「オルフィだってお父さんに隠してることがあるじゃないですか」

「それとこれとは全く違うだろ」

「違いませんよ。ナイリアール行きはお父さんも知るところだとしても、相手が想定する日数より長くかかりそうなことを判っていながら口をつぐんでいた訳ですから」

 顔をしかめて少年は続けた。

「意図的であった分、僕よりオルフィの方が悪質とも言えます」

「あ、悪質って」

 オルフィが目をしばたたけばカナトは肩をすくめた。

「冗談です」

「まあ、謝られるよりはいい……かねえ……」

 恐縮しきりのカナトも困るが、びしばし言われても困るのは同じだ。

「ふむふむ。成程。お前さんたちは一人前になるための旅の途中か」

 後ろからシレキが口を挟んできた。

「あんた、いたのか」

 何も嫌味ではなかった。正直に言って本当に忘れていたのだ。

「オルフィは父ちゃんがいるんだな。カナト坊やは爺さんが親代わりか。親に心配かけちゃいかんが、男だもんなあ、冒険に出たいよなあ」

「あ、いや、その」

 何も冒険に出たくて故郷を離れてきた訳ではない。だがその説明をするかどうかはまだ決めていない。

「よし、お前たちどっちも手紙を書け。モアンの町は小さいが隊商(トラティア)の通過点ではあるから、東西南北どこにでも託せるぞ」

「だから俺は手紙なんて書けないって」

「カナトが書けるんなら代筆してもらえばいいだろうが。何なら俺様がやってやってもいい」

「俺はいいんだよ、成人してるんだから」

「成人してたって子供は子供だ。親にとっては、ずっとな」

 ふん、とシレキは鼻を鳴らした。

「何だよ、偉そうだな」

 オルフィはかちんときた。

「シレキさん、お子さんがいらっしゃるんですか?」

 カナトが尋ねた。

(ああ、そうか)

(それで父親の目線で――)

「いや、いない」

 やってきた返事にオルフィはがくりとした。

「それなら偉そうに言うなっての!」

「あー、そりゃ確かに親になって子育てをした経験はないがなあ、この年になると経験してなくても判るこたああるんだよ」

「そういうのは『想像』って言うんじゃないのか?」

「ぐっ……手厳しいなあ」

 シレキは肩を落とした。

「経験で言うなら、親不孝な息子だった経験はある。お前たちはそうなるなって言ってんのさ」

 これでどうだ、とばかりに次にはシレキは胸を張った。威張るところではない、とオルフィは思った。


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