01 白光の騎士
ナイリアン国郊外の静かな街道を一頭の馬が疾駆していた。
馬を駆るのは、紋章の描かれた真白い鎧に真白いマントを身につけた人物だ。何も知らない者が見ても、「きっとご立派な方に違いない」と思うことだろう。
彼は実際、その通りの者だと言えた。
〈白光の騎士〉。それが彼のふたつ名だ。ナイリアン現国王レスダールが正式に任命したナイリアンの騎士の、それは最高位とされている。
少し知識のある者が見たならば、紺色の紋章がナイリアン国のものであることも、真白い鎧とマントが〈白光の騎士〉の証であることも、光るような金の髪と蒼玉のような青い瞳が名高き高潔なる騎士ジョリス・オードナーの特徴であることも、すぐに気づいただろう。
だが、その街道には誰もいなかった。
ジョリスはただひとり、無言で馬を走らせていた。
急がなくてはならない。
次の悲劇をとめるために。
間に合わなければ、また次の犠牲者が出るだろう。それは何としても避けなければならなかった。
『ウィラン峠の四つ辻を目指しなさい』
『そこで行き合う若者に、光の運命を託すのです』
彼の耳に蘇るのは、占い師の言葉だ。
ジョリスが目指すのは四つ辻そのものではなく、その先だった。だが問題はないはずだ。占い師はいついつに行き合うというようなことまで言わなかったが、本物の力を持つ予言者が未来を告げたとき、それは必ず当たる。ジョリスがゆっくり行こうと疾走しようと、そこで彼が誰かに会うと占い師が言うのならば、彼は必ず誰かに会うのだ。
だからジョリスは、彼の持つ理由のために急いだ。
急がなければならなかった。
かの「黒騎士」の凶行をとめなくてはならない。