ポンニチ怪談 その72 ナイカクカイゾウ
内閣改造を発表したばかりニホン国キジダダ総理。だが、なぜかベッドの上に括り付けられて目が覚め…
シュ、シュ
何かを研ぐ音で、キジダダ総理は目覚めた。
「ここは…」
目に入ったのは白い天井、公邸とも自宅とも違う、嫌味なくらいの白い色、それはまるで
「びょ、病院?」
鼻に微かに匂うのは消毒液の匂い、そして耳に入ったのは
「や、やめてえええ」
つんざくような女性の悲鳴
「お、オオブチくん?」
まさか、彼女がなぜ、そんな悲鳴を
「だ、大臣に任命したばかり…」
起き上がろうとしたが、手も足も拘束されていた。せめて声の方に顔を向けようとしたが、うまく胴体も動かせないのだ。
「い、いったい。そもそも、私は新閣僚の発表の会見にいたはず」
なのに、なぜ、こんな病院のベッドに括り付けられているのだ、しかも自分だけではない。先ほどのオオブチ氏だけでなく、複数の男性のうめき声や、悲鳴のような声も聞こえる。どれも聞き覚えがある、与党ジコウ党野しかも、
「大臣に任命したばかりの、議員たち、なのか?」
キジダダ総理の疑問をよそに、オオブチ氏のほうから、低い男性のだが奇妙な声が聞こえてきた。
“ええ、貴女のような方が大臣というのは、本当に困りものですねえ。証拠品にドリルで穴をあけて、言い訳にもならない御託を並べ立てて、一時期雲隠れ。しばらくしたら、謝ったからとか言って、金づるいや票づるにあやまってどうするんです?”謝るべき国民は放置ですか。まったくしょうがない、しっかり改造しなければ“
「い、いや、そんな、あ、頭に、そんな」
“あれ?貴女、ドリル大好きでしょう?大丈夫、ちょっと穴をあけて、この電線を通すだけです。まあ、本当は電線というのとはちょっと違うそうですけどね。”
「そんな、モノ、頭にいれないでええ、お、オカシクなっちゃう!」
“逆ですよ、マトモになるんです。ほら、お嬢さんだって”
『ママ。大丈夫ヨ。痛クナイシ、嫌ナコト感ジナイ』
“ね、旦那さんだって、皆さん、このとおり、良い子で善良な市民になりましたよ。親の威光で同級生を陰湿ないじめをしたり、部下にパワハラ、セクハラなんてしない、よい人たちに”
『ママ、私イイ子、誤魔化シナイ、素直ナイイコ』
“だから、貴女も税金で我欲を満たしもせず、勘違いな特権階級意識ももたない、国民のために尽くす大臣に、さあ”
ウィーン
ドリルの音だろうか、機械音が響く。
“ぎゃああああ”
オオブチ氏の悲鳴がドリルの音にかき消されていく。
叫んでいるのはオオブチ氏だけではなく。
「あうあうあううううう」
“ああ、アトウダさん、貴方は傲慢で、無恥で無知な発言が多すぎます、舌を抜いて、別の舌に入れ替えましょうね。ついでにひねくれた性根を叩き直してあげましょう、ほらちょっと脳に刺激を与えて、口もきちんとしてあげましょうねえ”
「と、トン一協会とは、な、なにも…いやちょっと、講演料とか…その…助けてくれええ」
“ああ、ハギュウダンさん。本当に親しかった元アベノ総理と同じ大ウソつきですねえ。そのうえ、国民に上から目線。これは少し回路いじくっただけでは、ダメですかねえ。よろしいでは中身を全部抜いちゃいましょう。何。頭に穴をあけるまでもない。鼻から全部だして、用意した善良な人の細胞からできたオルガノイドを注入しましょう。古代エジプトの技法と現代技術の合体ですよ、素晴らしいでしょう”
任命したはずの大臣たちの悲痛な声、声。声。
「ど、どうなっているんだ!だ、大臣が、こ、こんな目にあわされてるのに」
“大臣にふさわしくないですからねえ。議員としてもどうかと思えますし。まともじゃないですよ、キジダダさん含めて”
頭上から不意に聞こえてきた声にキジダダ総理は思わず
「な、なんだと。確かに支持率が下がって、内閣改造をしたが」
“改造になっていないんですよ。ちょっと人を変えてみただけで、中身はおんなじ、いや悪くなりましたしねえ。そのうえ、失敗続きのデジタルなんたら大臣だの、独りよがりで国民に喰わせてもらっている寄生虫三代目の自覚すらない副大臣などが留任ですから。ならばいっそ”
“中身を入れ替え、改造してしまえばいいってことになりましてねえ。こうして、アナタ方の利権優先の業突く張りの性根や不遜極まりない心を、嘘をつくのに特化した脳みそを入れ替えているんですよ”
「そ、そんなことしても、すぐわかるだろう、人が変わったら」
“大丈夫ですよ、見かけは同じですから。多少変わっても気が付きはしません、よしんば、気が付いたとしても、前より格段に国民のために働くようになるんですから、皆さん大喜びです”
“利権をむさぼるお仲間は気が付くかもしれませんけど、そのときは彼らもちゃんと改造してあげます、善人にね”
「そんな、そんな」
“さあ、キジダダさん、貴方は、特別コースで、じっくり、丁寧に改造してあげますよ。利権仲間のわがままな要求や太鼓持ちのおべんちゃらばかり聞いている耳でなく本当に国民の声を聞く聴覚にして。そうだ、目もよくしなくては、視力ではなく、きちんと国民の悩み、苦しみを見ないフリなんかしない目に変えないと。その、口も言いっぱなしで実行しないのではなくうそを付けない唇と舌を。徹底的に改造しなければ。もちろん、自分の保身と利権や身内びいきの脳から、国民第一に考え、寝食惜しんで国民に尽くす脳にね”
「ひいいいい」
悲鳴を上げる間もなくキジダダ総理の顔に白い布がかぶせられ、総理の意識はやがて深い深い闇に堕ちて行った。
どこぞの国では、何回かトップ連中の顔ぶれを変えて、何とか自分らの延命を図ろうとしているようですが、やればやるほど墓穴を掘っているような。やはり、まるごと入れ替えないとダメですかねえ。