056「それぞれの想い(そして悩み)②」
——生活魔法クラブ/顧問:フリオ・スタリオンの場合
「魔法の創造⋯⋯」
私は今、皆が帰った後、そのまま生活魔法クラブの部室である旧校舎の1階にある『私の部屋』という名の一室にいた。
「それにしても、先ほどのラルフ君の魔法創造は⋯⋯⋯⋯あまりにも衝撃的でしたね」
そう言って、フリオは部室で見せられた『ラルフ式生活魔法』を思い出す。
「まさか、治癒魔法『治癒』を生活魔法で作り出すとは⋯⋯。しかも、見た感じ、本来の光魔法下級魔法『治癒』よりも治癒効果が高かったように見えたが、まさか⋯⋯な⋯⋯はは」
そう言って、思わず苦笑いを浮かべるフリオ。
「いや、それよりもラルフ君自身のオリジナル魔法も見たがあれも凄かった。確か『鎌鼬の狂い刃』という風魔法でしたっけ? 5メートルもの大岩をあんなにもサクサクと削りまくって⋯⋯。しかも、ラルフ君はあの威力の魔法を『中級士レベル』だと思っているとは⋯⋯。いやはや何というか、ラルフ君の知識は歪過ぎるように感じます。でも⋯⋯ふふ」
ラルフ君の異常性に脅威を感じつつも、しかし、それ以上に彼の持つ『大きな可能性』に私は希望を見出す。
「ラルフ君のあの『魔法創造の力の正体』は未だ不明ですが、しかし、彼のあの力は間違いなくこの世界を変える⋯⋯」
そう言って、軽く身震いするフリオ。
「さらに、何の因果かあの六大魔法研究の第一人者である『ヘミング・ウォーカー』の子供だったとは⋯⋯。ふふ、学生時代を思い出しますね」
フリオはこのセルティア魔法学園の学生だった頃、六大魔法や生活魔法関係なく、魔法に関するものすべてをヘミングと一緒に競うように研究していた頃を思い出す。
「それにしても、ラルフ君の『ラルフ式生活魔法』⋯⋯あれは一体どうやって身につけたのでしょうか? まーこの辺は今後クラブで教えていただきましょう。ふふ⋯⋯楽しみです」
フリオはそう言って、個人的趣味で採集していた『高価な魔石』を見つめる。
「魔道具開発⋯⋯ですか。正直、ラルフ君には多くの魔法を創造していただくほうを優先していただきたいのですが⋯⋯。まー、でもその辺は魔道具開発と同時進行という感じですかね」
フリオはテーブルに置いてあるワインに口をつける。
「さて、これから忙しくなりそうですね。まーとりあえずは、レオンハート君とミーシャ君に会って今後についての相談が先ですね」
フリオは、もう一度ワインに口をつけ、今度は一気に残りを飲み干した。
「⋯⋯ふぅ、いやはや、これまで『実現不可能と思っていた計画』がラルフ君の出現により、少し『実現』の可能性が出てきましたね。まーラルフ君がどの程度の者かにもよりますが⋯⋯。しかし、いずれにしても、これは『大きな希望』であることは間違いないでしょう」
そう言って、フッと一人微笑する。
「これは一度、いつか近いうちにヘミング・ウォーカーに会いに行く必要があるかもしれませんね⋯⋯」
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——ウォーカー辺境伯/当主:ヘミング・ウォーカーとその一家の場合
「ラルフの奴、ちゃんとやっているだろうか?」
現在、夕食を食べ終わり、のんびりとした時間が流れている広い居間でウォーカー家全員が寛いでいた。
「心配いりませんよ、お父様。ラルフお兄様は今日も学園を楽しんでいるようです」
そんな情報をサラリと報告したのは、ラルフの2つ下の妹ローラ・ウォーカー。
「そうか。それはよかった!」
ヘミングがローラの報告に笑みをこぼす。
「あ、ところでお父様⋯⋯そのラルフお兄様のお話ですが、どうやらいよいよ『ラルフ式生活魔法』の研究や魔道具開発を始めるようですわ」
「何っ!? 本当か!!」
ローラの報告に父ヘミングが「待ってました!」と言わんばかりな期待のこもった笑顔で声を上げる。
「そうか⋯⋯。それじゃあ、僕らも急がなきゃだね、ローラ」
「ヘンリーお兄様」
ここで、ローラに声をかけたのはラルフの弟である1つ下のヘンリー・ウォーカー。
「ええ。現在の布教活動の状況としてはウォーカー領のすべての町や村は終わったから、次はいよいよ⋯⋯⋯⋯『他領』ね」
「ああ、わかってる。だが、それにはラルフ兄上の『ラルフ式生活魔法』が世に広まってもらう必要があるのだが⋯⋯」
そう言って、ヘンリーは口を噤む。
「⋯⋯そうね。ヘンリーの懸念はもっともだわ」
「お母様」
ヘンリーに優しい言葉をかけるのは、ヘミングの妻であり子供達の母であるステラ・ウォーカー。
「でも、心配いらないわ。ヘンリー。あの子がどういう子かはわかるでしょ?」
「は、はい。お母様」
「あの子は自分のやりたいことに対して、遠慮なく突き進んでいくタイプでしょ? そんなあの子なら、そう遅くないタイミングで色々とやってくれると思うわよ」
「お母様の言う通りよ、ヘンリーお兄様。ラルフお兄様はああ見えて空気を読まない⋯⋯いえ、読むつもりがないタイプなのはわかるでしょ? そんなラルフお兄様ならきっと近いうちにやってくれると私は信じているわ」
母ステラの言葉に、ローラもまた乗っかってヘンリーを励ます。
「そうだね。僕としたことが⋯⋯。まだラルフお兄様のことを完全にはわかりきってなかったよ」
そう言って、猛省するヘンリーに対し、
「そんなことないわ、ヘンリーお兄様」
「ローラ⋯⋯」
「私たちはただ今まで通り、ラルフお兄様の素晴らしさを少しずつでもいいから広めていく⋯⋯⋯⋯それだけよ」
「そうだね。ありがとう、ローラ。励ましてくれて!」
「うふふ⋯⋯仲の良い兄妹だこと」
「ふふ⋯⋯そうだな。ステラ」
そんな、ヘンリーとローラのやり取りをそっと見守るステラとヘミング。
「ステラ⋯⋯。私たちもそろそろ『外堀り埋め』を始めようか?」
「そうね、ヘミング。私たちも動きましょう」
こうして、少しずつ学園で動き始めたラルフに連動するかのように、ウォーカー家もまた新たな行動を開始するのであった。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo




