055「それぞれの想い(そして悩み)①」
——生活魔法クラブ/部員:テイラー・バレンタインの場合
「な、何だ、ラルフのあの生活魔法は⋯⋯。いや、それ以上に『魔法を創造する』とか⋯⋯意味わかんねーよ!」
現在、俺は生活魔法クラブから寮の部屋に帰ってきてやっと落ち着くことができ、その後改めてさっきまでいた生活魔法クラブでの出来事を思い出していた。
それは、ラルフが今まで見たこともない高威力の生活魔法を発現させたことだったり、光魔法の治癒魔法『治癒』を生活魔法の魔力回路で作り出したことだったり⋯⋯。
でも、その中でも一番驚いたのは、あいつの完全オリジナルの魔法だ。
「六大魔法を模倣して生活魔法で作り出しただけでも凄いのに、完全にオリジナルの魔法まで⋯⋯⋯⋯あいつ何者だよ」
はっきり言って、このことを隠し通すことが本当にできるのだろうか?
正直、非常に隠し続ける自信がない。
だって、ただの生活魔法士が希少魔法の治癒魔法を作ったんだぞ?
しかも、生活魔法で!
「こ、こんなの⋯⋯バレたら身柄拘束されて最悪殺されるやつじゃねーか!? この『六大魔法絶対主義』で『貴族第一主義』のセルティア王国で生活魔法士が光魔法の治癒魔法作っちゃマズイだろ!」
俺はプチ混乱していた。当たり前だ。こんなの誰がまともでいられるよ?
「はぁぁぁ〜マジかよぉぉぉ〜⋯⋯。ラルフがまさかあんな常識破壊者だったとはな〜⋯⋯。人は見かけによらないとはよく言ったもんだぜ⋯⋯はは」
俺はいよいよ恐怖が一周したのか⋯⋯気持ちがだいぶ楽になった。
「そっかー⋯⋯でも、ラルフはどうすんだろな〜。まーあいつはこれからも変わらずこのまま生活魔法を作ったり、魔道具を作りたいって言ってたっけ⋯⋯」
まーあいつ、政治とかに関心なさそうだもんなぁ〜。
「ラルフのあの何つったっけ? えーと⋯⋯⋯⋯あ、そうそう『ラルフ式生活魔法』。あれを実際に見たのは俺とレイカ先輩とフリオ先生の三人だけだし⋯⋯。それに生活魔法クラブの部室は旧校舎で新校舎からはだいぶ離れている⋯⋯。ただでさえ、誰も近づかない場所なんだから実は案外秘密は守れるのでは?」
俺はもう一度よく考えてみた。最初は「バレたら殺される」とばかり思って不安しかなかったが、しかし、少し考え方を変えてみよう。
「ま、まず、ラルフがもしも六大魔法を生活魔法で作り出せるのなら⋯⋯。そして、それらの魔法を魔道具に変えることができれば生活魔法しか使えない平民や獣人・亜人らでも使えるようになる。しかも、魔道具なら『称号』に関係なく使えることができるわけだから、もし『特級士しか使えない魔法』をラルフが創造して魔道具にすれば平民が特級魔法を行使できるようになるってわけか⋯⋯」
ブルっ⋯⋯。
俺は一瞬、ラルフの『可能性』を想像して身震いした。
「マ、マジで、ラルフが『称号』関係なく六大魔法を生活魔法で創造することができたら、マジでこの国どころか世界さえも一変させるんじゃねーか?」
その日——俺は期待や不安で妙に興奮してしまい一睡もできなかった。
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——生活魔法クラブ/部長:レイカ・シュバイツァーの場合
「⋯⋯ったく! とんでもない奴が現れやがったな」
そんな愚痴を吐くのはレイカ・シュバイツァー。セルティア王国にある10の侯爵家の中でも『三大侯爵』と言われ、王国内でも大きな力を持つ『シュバイツァー侯爵家』⋯⋯それが彼女の家であり、彼女はその家の第一令嬢である。
しかし、そんな三大侯爵の令嬢にも関わらず、彼女は『聖鳴館』の女子寮を利用している。
本来であれば、三大侯爵である彼女が学生寮を利用するというのは通常あり得ない。ほとんどの貴族令嬢⋯⋯とりわけ子爵以上の生徒であれば、実家や別邸が王都にあるのでそちらを利用する。
だが、彼女は趣味である『魔法研究』のため「無駄な時間を使いたくない」という理由から、王都の別邸ではなく学生寮を使っていた。
「ふぅ〜⋯⋯とりあえず、やっと部室から解放されたわね。正直超しんどかったわ⋯⋯」
さっきまでいた部室で軽く気絶したときのことを思い出したレイカの顔が歪む。
「それにしても、まさか生活魔法で光魔法の治癒魔法を作り出せるなんて⋯⋯」
彼女はそう言って、さっきまでいた生活魔法クラブでの出来事を思い出す。
「私も生活魔法の可能性についてはいろいろと調べていたが、まさか魔法自体を作り出せる力があるなんて⋯⋯⋯⋯。いや、あれは生活魔法が理由というよりもラルフ・ウォーカーだけの力ということなのだろうか?」
その時、彼女の脳裏に一つの可能性が浮かび上がる。
「⋯⋯『称号』かっ?! ま、まさか、奴の『称号』がこの『魔法を創造する』という力の原因なのか?」
そう言って、彼女は再度熟考する。
「そう言えば、たしか、ラルフ・ウォーカーの称号名は『生活魔法帝』だったか。しかし、こんな称号名は初めて聞く。『生活魔法帝』⋯⋯⋯⋯『帝』か」
そこで、彼女は自身の持つ膨大な知識をフル動員してこのラルフの称号名をどこかで見たことがなかったか再度脳内検索するものの、
「記憶にはない⋯⋯か」
ラルフの称号に関して、これまでの知識には心当たりがなかったことを知り、少し落胆するも、
「いや待てよ?『帝=王』⋯⋯か。ということは『生活魔法の王』という意味になるが、これが一体何を意味する?」
聞いたことのない『称号』ではあったが、しかし、ラルフの力の秘密を握る『鍵』になるであろうと彼女は確信していた。
「『帝=王』⋯⋯か。もしかすると『古代史』にヒントがあるか⋯⋯?」
そう思った彼女は、その足でそのまま校舎内にある図書館へと向かった。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
https://ncode.syosetu.com/n3084hz/
『毎週土曜日13時更新』です。
よろしくお願いいたします。
mitsuzo
 




