054「ラルフ式生活魔法④」
「ラルフが今やった魔法創造は人に知られるとかなりマズイものだと思う」
「そっか〜。じゃあ、この光魔法の『治癒』を魔道具にすることはやめたほうがいいか⋯⋯」
「ああ、そうだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや待てよ?」
さっきまで「魔法が作れるというのがバレるのはマズイ」と話していたテイラーだったが、ここにきて何か声色が変わって話し始めた。
「今、ラルフが光魔法『治癒』を発現できたということは、それを魔道具に収納は可能となる⋯⋯」
「うん」
「そうすれば、さっきも言ったが治癒魔法は光魔法の魔法士しか使えない魔法なので希少価値が高い。そのため、治癒魔法を受けるのはたとえ下級魔法『治癒』であろうと高額になる。つまりお金がいる」
「うんうん」
「なので、この『治癒』を魔道具にして売ることができれば、光魔法士の『治癒』を受けるよりも安価で済むから間違いなく儲けることができる⋯⋯っ!!」
「おおー!」
「『おおー!』⋯⋯じゃねー! この馬鹿たれどもがっ!!」
二人ともレイカ先輩にスパコーンと良い音を立てて殴られた。それにしてもレイカ先輩、すごい良い音でツッコむけど⋯⋯どんなはたき方を?(※だいぶ、どうでもいい)
「いいか? お前らが今言ったことを本当にやったらどうなるか教えてやろう。⋯⋯ズバリ、半年後に魔法騎士団に捕まって死罪確定。その後、王都の広場で絞首刑⋯⋯そんなとこだ」
「ひぇ⋯⋯」
「マ、マジっすか?!」
「当たり前だ。そんな魔道具量産したら治癒魔法の市場価値が落ちるだろうが! すぐに魔法騎士団に調査されて終わりだよ」
「そうか〜。やっぱそうだよな〜⋯⋯。レイカ先輩の言う通り値崩れさせるのはマズイよな〜」
「そうだ。⋯⋯ふむ、どうやら私の話を理解してくれたようだな、ラルフ」
「はい。レイカ先輩ありがとうございます」
「うむ。わかってくれたのなら、それで⋯⋯」
「なので、今度は『完全なオリジナル魔法』を創造して、それを魔道具にしたいと思います!(ふんす!)」
「「「え? 完全な⋯⋯オリジナル⋯⋯?」」」
「はい。これなら市場に無いものなので値崩れの心配もありませんからね! いや〜、そっか〜! そうだよな〜! こういうことだよな〜! レイカ先輩、気づかせてくれてありがとうございますっ!!」
「あ、いや、うん⋯⋯。ていうか、お前『完全なオリジナル魔法』って言ったが、それって、まさか『世の中にない全く新しい魔法を作り出す』てことじゃないよな?」
「え? そのつもりですが、何か?」
シーン⋯⋯。
「で、できる⋯⋯のか?」
「はい」
「「「っ!!!!」」」
三人の目が点になった。
「じゃ、早速やってみますね〜」
「ちょっ?! お、おい、ラルフ君!」
「はい?」
「そ、そんなに、今すぐできるものなのかいっ?!」
「はい」
「そ、そう⋯⋯」
「では、物は試しということでやってみますね〜」
「「「(か、軽ぅぅ〜〜〜!)」」」
********************
う〜ん⋯⋯とはいえ、どんな魔法を作ろうか⋯⋯。治癒魔法関係は光魔法の属性になるからダメなんだよな〜。
「えっと⋯⋯フリオ先生」
「は、はい。何でしょう⋯⋯?」
「光魔法は希少価値が高いからダメということですが、では、それ以外の属性魔法のものなら作るのは問題ないですか?」
「ま、まーそうだね。魔道具で使える魔法は光魔法以外のものが多いから大丈夫⋯⋯かな?」
「あ、そうなんですね。よかった〜」
(((な、何か、魔法を作るのが当たり前みたいな会話になっているのだが⋯⋯っ?!)))
「あ! あと、魔道具であったら便利なものとかありますか?」
「そ、そうだね。個人的に言えば、魔物から出る魔石が必要な時もあるので魔物が倒せる強力な攻撃魔法の魔道具があれば助かりますね」
「なるほど。攻撃魔法⋯⋯か。ちなみに魔物の魔石採取のときはどういった場所に行かれるんですか?」
「まーダンジョンだったり、森とかですね⋯⋯」
そうか。そういえば、学園に来る前は魔法の訓練で森に魔物を狩りに行ってたな〜。あれ? それだったら、
「すいません! 実は学園に来る前の話なんですが、私が家にいた頃、森で魔物を狩っていた時にいくつか魔法を作っていたのを思い出しました。なので、今回はまずその魔法を見せますね!」
「え? 学園に来る前? 魔物を⋯⋯狩ってた?」
「はい。えーと⋯⋯それじゃあ、室内で魔法を使うと大変なことになるので外に行きましょう!」
そう言って、私は三人に外に付いてきてもらった。その時、フリオ先生が「人目につかない場所でやりましょう」ということで、フリオ先生の案内で玄関とは真逆にあたる旧校舎の裏にある森の中へと移動。そこから、歩いて2〜3分のところにちょっとした空き地があり、そこには木々の他に大きな岩も点在していた。
「そうですね⋯⋯じゃあ、あの大岩に向かってやってみますね」
「あ、ああ」
そう言って、私は目標の5メートルほどの大岩に向かって、両手のひらを突き出した。
(((ごくり⋯⋯)))
私は家の森で魔物を狩っている時によく使っていた魔法をイメージしながら魔力を注ぎ込んでいく。
(こんなもんかな?)
そして、
「⋯⋯『鎌鼬の狂い刃』!」
突き出した私の両腕の手のひらから無数の『真空の刃』が大岩に向かって放たれる。
その放たれた真空の刃は目の前にある大岩を、まるでバターでも切るかのごとくスルスルっと切り刻んでいき、数十秒ほどで5メートルもあった岩が完全に削り取られ破壊された。
「えっ!?」
「なっ!?」
「はっ!?」
三人がまたも体を硬直させている。
「えっと⋯⋯とりあえず私は六大魔法をほとんど見たことがないので、殺傷力がある程度高い風魔法ということで、自然現象でたまにある『鎌鼬』をイメージして作りました。威力的には風魔法中級士が使うレベルをイメージしました。いかがでしょう?」
「ラ、ラルフ君⋯⋯」
「はい」
「君には、この魔法の威力は『中級士レベル』という認識なんですか?」
「え? は、はい⋯⋯。何か問題でも⋯⋯?」
「そ、そうですね。正直言ってこれほどの威力の魔法が『中級士レベル』なわけは絶対にあり得ません。これは『上級士レベル』の威力です」
とは、フリオ先生の談。
ちなみに、テイラーとレイカ先輩は破壊された大岩をさっきからずっと無言で見つめ続けていた。
「どうでしょう、レイカ先輩! この風魔法なら魔道具として販売は可能ですか?!」
「え! あ、え〜と⋯⋯そうだなぁ〜⋯⋯」
「売れそうでしょうか!」
「え? あ、う、うん⋯⋯」
お? レイカ先輩が何かたじろいでいる! よし、ここは一気に押していく!(キラン)
「レイカ先輩! 実は予定では、この風魔法『鎌鼬の狂い刃』の威力を調整できる『調整機能』を追加する予定でして!」
「え? 調整機能? 魔法の威力の? え? え?」
「そして、魔力を込めた魔石を付けた『有限式魔道具』として販売したいなと思っています! いかがでしょうかっ!!」
よし、バッチリだ! 完璧なプレゼンではなかったのではなかろうか!
「え、え〜と⋯⋯⋯⋯⋯⋯ギブ」
「え?」
「あとは、フリオ⋯⋯お前に⋯⋯まか⋯⋯せた⋯⋯⋯⋯ガクッ」
「レイカく〜〜〜んっ!!!!」
突然、レイカ先輩が『ギブアップ宣言』をして、フリオ先生に何かを託すようなことをした後、意識を手放したのですが⋯⋯どゆこと?
「まったく⋯⋯無茶しやがって!」
そう言って、フリオ先生は横になっているレイカ先輩に見事な敬礼を行った。
「え、えーと⋯⋯何がどうなっているんでしょう?」
ガシッ!
「いいかい、ラルフ君!」
「は、はい⋯⋯!」
フリオ先生がレイカ先輩に敬礼を放ったあと、クルッとこちらに体を向けるや否や、今度はすぐさま私の肩を両手で力強く掴んだ。何が何だかよくわからないが、とにかく異様なテンションに仕上がったフリオ先生が目の前にいた。こ、怖い⋯⋯。
「レイカ君は極度の緊張と非常識な現象に苛まれ、心が耐え切れず意識を失った⋯⋯」
「は、はあ⋯⋯」
「そして、私はそのレイカ君の『想い』をしっかりと受け取った!」
「え? あ⋯⋯う、うん」
「もう正直、何が何だかだよ、ラルフ君! 私もねぇ⋯⋯もう疲れた⋯⋯疲れたよ、パト○ッシュ(※パト○ッシュ?)! なので、もう『鎌鼬の狂い刃』という風魔法の魔道具作成を許します(※投げやり感)!」
「えっ! ほ、本当ですか! ありがとうございますっ!!」
「もうね〜、とりあえず、やるだけやればいいよ。うん。何かあったら何かあったとき考えればいいから!」
「なるほど、そうですね!」
「うむ。良い返事だ、ラルフ・ウォーカー!」
「ありがとうございます、フリオ先生!」
こうして、私のオリジナル魔法を魔道具にすることを許してもらえました。よかった。
「え、えーと⋯⋯⋯⋯これ、本当によかったの⋯⋯かな?」
この場で一人冷静だったテイラーのひとり言を誰も拾うことはなかった。
こうして、『生活魔法クラブ』の波乱に満ちた魔道具開発がスタートしたのである。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo




