005「気づくと異世界転生〜神託の儀〜②」
私の順番の前の子が『火魔法特級士』という『レア称号』をゲットしたということで、会場は異様な雰囲気に包まれていた。そして、そんな興奮冷めやらぬ中、いよいよ私の出番がやってくる。
この時、赤ちゃんながら思ったのはもちろん、
「この後に『神託の儀』回したくね〜」
である。
しかし、無情にも順番はやってきた。
私の家⋯⋯ウォーカー家の当主である父は『風魔法特級士』、そして母は『光魔法上級士』といういずれもレア称号持ちということもあり、周囲は私が「少なくとも『レア称号』を得るのは間違いないだろう!」とハードルをモリモリに上げてくれていた。
そんな異様な雰囲気の中、私は水晶に手をかざした。
すると、今日一番の光が⋯⋯しかも七色⋯⋯虹色の光が⋯⋯周囲に一斉に放たれた。この演出を見て私は、
「ばぶ! ばぶばぶばぶぁぶぁ〜! ばぶばぶばぶぁーっ!!(よし! 虹色演出は『SSR』確定演出! キタコレーっ!!)」
——が、しかし、
「ウォーカー辺境伯嫡男! ラルフ・ウォーカー様の称号は⋯⋯⋯⋯⋯⋯『生活魔法帝』です!!」
「「「「「え⋯⋯?」」」」」
周囲が司祭の言葉に絶句した。
「そ、そんな、バカなっ?!」
それは両親も、
「ば、ばぶぁっ?!」
そして、赤ちゃんである私本人も⋯⋯⋯⋯この場にいる全ての者が絶句した瞬間だった。
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私が『神託の儀』で得た称号は『生活魔法帝』という見たことも聞いたこともない称号だった。
最初、『帝』と付いているので「もしかして、すごい称号なんじゃないか」とも思ったが、周囲を見るとどうやらそんなことはないらしく、それどころか、さっきまで期待に胸膨らませていた周囲の者たちのテンションがダダ下がりしているのがわかった。
しばらくすると、そんな称号をもらった私に対して、同情や落胆の声が上がってきた。
「あの『風魔法特級士』の称号を持つウォーカー家の嫡男が⋯⋯まさか風魔法どころか光魔法でもない⋯⋯ただの『生活魔法』の称号を得るとは⋯⋯」
「そうですな。現当主のヘミング・ウォーカー様の血を引く次期当主であろうラルフ様が、まさか⋯⋯生活魔法の称号を得る⋯⋯など⋯⋯」
「生活魔法なんて⋯⋯そんなの⋯⋯平民と変わらないじゃないかっ!!」
「コラっ! やめろ! 聞こえるだろっ!!」
「これじゃあ、現当主のような活躍は難しいだろうな⋯⋯」
「いやいや、それどころか貴族としての将来もかなり厳しいだろう。なんせ、六大魔法が使えず生活魔法しか使えないわけだからな」
「しかし、『生活魔法帝』などという称号は初めて聞きましたな〜。『帝』ということは『帝王』とか『|皇帝』とかそういう意味なのだろうか?」
「そんなことはどうでもいいじゃろう! 帝王だろうが皇帝だろうが『生活魔法』じゃどうにもならんわい!」
周囲の声や反応から見るに、私が得た称号『生活魔法帝』というのは見たことはないものの、おそらく平民でも使える魔法『生活魔法』しか使えない称号だろうという意見で一致し、私や両親に同情の声が広がった。
ちなみに『帝』と付いたところで「生活魔法じゃ話にならんよ」と言って、何人かに苦笑いされたのを私は忘れない。それにしても、
(そうですか〜。異世界転生といえば『チート魔法が使える』が相場だと思っていたのだがな〜)
そんな神託を受けて落胆する0歳児である赤ちゃんの私に、父は「大丈夫だぞ、ラルフ! 魔法がダメでも剣術や体術を磨けば問題ない! 私がちゃんと導いてやるから心配するな!」とすっごく励ましてくれた。また母のステラからも「何があっても私たちが守るから心配しなくていいのよ、ラルフ」と思わず照れちゃうような優しい言葉をかけてくれた。
最初、両親も私の神託を聞いてショックの声を上げていたが、今では私に心配かけまいと必死に勇気づけてくれている。
まーこの時の私は0歳児⋯⋯赤ちゃんなので、私みたいな『前世の知識と記憶がある状態』でなければ、神様の神託に落胆するも何もなかっただろう。
とはいえ、いずれにしても、そんな優しい言葉をかけてくれた両親を見て、当時の私は改めて「この家族に生まれきてよかった」と胸の奥がジーンとなったのを今でも覚えている。
こうして、私の『神託の儀』は残念な結果に終わった。
と思われたが、しかし、それは大きな間違いだった。
のちに、それは、残念な結果ではなく最善な結果⋯⋯。
いやむしろ、『極上』な結果だったと後に知ることとなる。
プロローグ 完
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo




