035「お昼休み①」
「さて、午後の自由選択の授業はどこから見に行こうかな⋯⋯」
午前の必修科目の授業が終わり、今はお昼休み——私は1階の奥にある食堂に行って『本日のランチ』を頼んでテーブルに腰を下ろした。
ちなみに、本日のランチは何かの鳥っぽい肉と黒パンとサラダだった。鳥は茹でたあとに塩で味付けしたようなものだった。美味しかったが、少しパンチのない味だった。醤油とかの照り焼きだったらな〜と思ったが案の定、味付けは塩だけだ。
「ていうか、そもそも、この世界に醤油や白米、味噌といった食材は存在するのだろうか?」
今のところ、まだそんな食材があるとは聞いたことがない。家の本でも調べまくったがそれらしき食材はなかったので望みは⋯⋯薄い。
「転生なので生まれた時からパン食文化には慣れたけど、やっぱり日本人の記憶が残っている以上、できれば熱々のご飯や味噌汁、醤油を使った料理とかあればぜひ食べてみたい。あ⋯⋯思い出したら食べたくなってきた」
いかん、いかん。この世界にあるのかどうかもわからないものの味を思い出すなど辛すぎる⋯⋯。忘れよう、忘れよう。
私はそんな『妄想』をすぐに振り払い、目の前の食事を楽しんだ。すると、
「ウォーカー様、こちらよろしいでしょうか?」
「えっ?! あ、はい⋯⋯」
この人、たしか⋯⋯、
「初めまして。わたくしバレンタイン子爵家嫡男テイラー・バレンタインと申します」
「ど、どうも。ウォーカー辺境伯家嫡男⋯⋯ラルフ・ウォーカーです。どうぞ、おかけください」
挨拶に来たのは、茶髪短髪のイケメン君。自己紹介ではハキハキと元気な挨拶をしていたのでよく覚えている。
「ありがとうございます⋯⋯」
テイラー君はそう言って私の対面に腰を下ろした。
「ウォーカー⋯⋯様! 昨日の自己紹介⋯⋯はとてもすごかっ⋯⋯素晴らしかったです!」
「あ、ありがとうございます。あと⋯⋯敬語は不要ですので。ほら、学園は『身分無礼講』ですから。気軽に『ラルフ』で構いませんので⋯⋯」
「えっ?! 本当ですか!!」
「はい。それにテイラーさん⋯⋯喋りづらそうですから」
「⋯⋯え? あ、あははは⋯⋯」
「ですので、気にせずいつもの口調で構いませんよ」
「そうか! すまん、ありがとう、ラルフ・ウォーカー! 俺のことは『テイラー』と呼んでくれ!」
だいぶ、砕けたな⋯⋯おいw
「わ、わかった。ありがとう⋯⋯テイラー」
********************
「ところで、どうしたんですか? 何か私に用でも?」
「え? あ、ああ⋯⋯ラルフは午後の授業何か取るのかなぁ〜と思って⋯⋯」
「えっ?! テイラー、午後の授業取るの?」
「ああ」
「へ〜、そうなんだ。貴族の生徒は午後は授業取らないものかと思ってたよ」
「いやいや、貴族の生徒⋯⋯って、ラルフもそうだろ?!」
「え? あ、そう⋯⋯だった。はは⋯⋯」
私は、つい地球にいた頃のイメージで話をしていたみたいだ。⋯⋯うっかりです。
「ふ〜ん⋯⋯」
「? 何、でしょう?」
「あ、いや、ラルフって何か貴族っぽくないなぁ〜って。あ⋯⋯別に箔とかオーラがないとか、そういうんじゃないぞ! 何か、いかにも貴族⋯⋯みたいに偉ぶっていないからよ」
「いや、それを言ったら君だってそうじゃないか、テイラー。『おまいう』だよ」
「おまいう?」
「お前が言うな⋯⋯てこと」
「へ? は、ははは⋯⋯あっはっはっはっは! なるほど! おまいう⋯⋯か! だな!」
そう言って、ゲラゲラと思いっきり笑うテイラー。いや、そんな豪快に笑うって君こそ本当に貴族? まーでも、すごく話しやすいし気が合う。
「なぁ、ラルフ。午後の授業⋯⋯一緒のやつ取らないか?」
「いいけど⋯⋯ちなみに何の授業を取ろうと思ってるの?」
「一応、予定は『生活魔法基礎』かな。あとは『魔石専門1』とか⋯⋯」
「えっ?! テイラー⋯⋯『生活魔法基礎』取るの!!」
「ああ」
「てことは、テイラーの称号って、もしかして『生活魔法』に関係するものなの?」
「生活魔法に関係するもの? ああ⋯⋯『生活魔法士』のことか。いやいや違う、違う。俺の称号は『水魔法上級士』だ」
「えっ? 六大魔法士?! しかも『水魔法上級士』って!! な、何で、そんな人が『魔法自由科』にいるの!!」
「いや〜⋯⋯俺『魔法騎士科』なんて1ミリも興味ないんだよ」
「ええええっ!? 貴族の生徒にとって『魔法騎士科』に入るのは名誉なことじゃないの!!」
「いや〜、貴族なんて堅苦しいの嫌なんだよ。俺の夢は自由にこの世界を旅することだからよ!」
と、目をキラキラ輝かせながら夢を語るテイラー。ま、まぶしい⋯⋯。
「で、でも、テイラー。君は嫡男で⋯⋯家の後継ぎじゃないの?」
「ああ、まあ今のところはな」
「今のところ?」
「ああ。2つ下に弟がいるんだが、そいつが賢いからそいつに譲るつもりだ。それにウチは元々平民だからよ。一代限りで領地もない『名ばかり貴族』だから気楽なもんよ! わっはっはっは!」
と言って、また豪快に笑うテイラー。
なるほど。テイラーは『元平民出身の貴族』か〜。
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mitsuzo




