013「ヘンリーにバレました(9歳)」
——9歳になった
ヘンリー8歳。ローラ7歳。
早朝の父との剣術・体術稽古の時間——ここで、ヘンリーと実戦形式で試合をすることとなった。
実戦形式⋯⋯それは『魔法使用可』を意味する。
通常、練習で魔法を使っての剣術・体術の訓練はしない。なぜなら『危ない』から。
なので、これまでは実戦形式の⋯⋯魔法を使った剣術・体術稽古はなかったのだが、それが解禁されたのだ。ちなみに、本来ヘンリーが9歳になるまでは実戦形式の試合はやらない予定だったと父上が言っていたが、ヘンリーの剣術・体術の成長が著しいということと本人の希望もあり、父から特別許可が出た。
こうして、私はヘンリーと実戦形式の試合をすることとなった。
「兄上! 魔法が使える実戦形式なら僕は絶対に負けません!」
ヘンリーがそう言って私をキッと睨んでくる。
というのも、実は5歳から始めたこの剣術・体術訓練でヘンリーに私は一度も負けたことがない。
なぜなら『魔力を注ぎ、魔法効果を上げた生活魔法の身体強化』を使っていたからだ。ちなみに、ヘンリーも『風魔法の身体強化』を使っていた。
本来、生活魔法の身体強化よりも六大魔法である風魔法の身体強化のほうが身体能力の上昇は高いのだが、しかし、私のは魔力を注ぎ威力をさらに高めた⋯⋯いわば『高威力版生活魔法の身体強化』だったので、結果、ヘンリーに剣術・体術の訓練での手合わせでは一度も負けたことがない。
当時、これを見て、父もヘンリーも「なぜ? どうして?」と困惑していた。それくらい、六大魔法の身体強化と、普通の生活魔法の身体強化では身体能力の上昇率に差があるからだ。
結局、父もヘンリーも私がヘンリーを圧倒して倒せたのは「単純に、剣術・体術の才能があるからだろう」と無理矢理納得していた。
ただ父上は生活魔法しか使えない私が『剣術・体術』に才能があることを知ってとても喜んでいた。おそらく私が『生活魔法の称号』を持っているからだろう。
私は父上の優しさに触れて嬉しかったが、その横で、ヘンリーはずっと悔しそうな顔をしていたのを覚えている。
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そして、私とヘンリーの実戦形式の試合⋯⋯『模擬戦』が始まった。
ちなみに、奥にあるテラス席では母とローラが一緒に紅茶とお菓子を楽しみながら私たちの模擬戦を観戦している。
「それでは、はじめぇぇ!!」
「一瞬で終わらせてやる!『風刃』っ!!!」
「!」
父の掛け声と共にヘンリーが風魔法中級魔法『風刃』を展開。無数の風の刃が襲ってきた。
「これで終わりだ、兄上ー!」
——しかし
フッ!
「えっ?⋯⋯き、消えたっ?!」
私はいつもより多めに魔力を込めた身体強化により、ヘンリーは私が消えたと錯覚したようだ。
「後ろだよ、ヘンリー」
「なっ?! いつの間に⋯⋯!」
ヘンリーは私が背後にいたことに真っ青になって驚くと、
「う、うわぁぁぁ! 風矢! 風刃! 風矢!⋯⋯⋯⋯何で⋯⋯何で当たらないんだよぉぉぉーーーっ!!!!!」
ヘンリーはむちゃくちゃに魔法を放ってきた。しかし、私はその魔法をことごとく躱す。
チラ⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯」
私は、ヘンリーの魔法攻撃を避けている間、何となくチラッと父のほうを見た。すると、父は私とヘンリーの戦いを見て、何か考えているような表情をしていた。
結局、ヘンリーは魔法攻撃を連発した結果——魔力切れを起こして失神したため、模擬戦は私の勝ちとなった。
その後も模擬戦は『3日に1回』のペースで行われたがすべて私が勝った。
「どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうして! どうしてぇぇぇぇ〜〜〜っ!!!!」
最初こそ威勢が良かったヘンリーだったが、模擬戦で負けが続くと、だんだんと私に対しての嫌味を言わなくなっていった。
しかし、それは反省して言わなくなったということではなく、それ以上に自分よりも遥かに劣ると思っていた私に一番の自信だった『魔法使用可』の模擬戦で一度も勝てなったためだった。
彼の自尊心はズタズタに傷つき、その結果私への悪態をつくことをやめたのだ。
それからしばらくして、ヘンリーは早朝訓練にこなくなるようになり、さらに、それから一週間ほど経つと、ついには早朝訓練はおろか自分の部屋から出てこなくなった。
ヘンリーは引きこもった。
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mitsuzo




