103「魔法騎士科1年生(1)」
私の名は、アリス・オネスティ。
オネスティ伯爵家の長女だ。
元々、我がオネスティ家は『子爵家』だったのだが私が『神託の儀』で『光魔法特級士』の称号を授かったことで状況は一変。爵位が『子爵』から『伯爵』へと陞爵した。
さらに、私の授かった『光魔法』はただでさえ出現率が低い属性である上、さらに『特級士』だったことで世間的には「伯爵どころか侯爵にしてもいいのでは?」などといった声が何度も上がることがあった⋯⋯と両親が我が事のように、自慢げに、私に何度もその話をしていたのを覚えている。
正直、私は今も昔も陞爵には全く興味がなかったのだが、しかし、両親の喜ぶ姿を見ていると、そんな『わがまま』など言えず、私は両親の望むような反応を、言葉を態度を示し続けた。⋯⋯そして、それは今も演じ続けている。
私には夢がある。それは魔法を探求する研究者⋯⋯『魔法研究者』になることだ。
しかし、このまま偽りの自分を演じ続ければその先に待っている私の未来は『家の為の結婚』だ。貴族の女性の将来とは常にそういうものであり、これがこの世界の常識なのだ。
貴族女性が『魔法研究者』になるなど⋯⋯夢のまた夢。⋯⋯儚い夢。⋯⋯無謀な夢。
私はそんな世界の常識が大っ嫌いだ。
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——入学式から2ヶ月後/魔法騎士科1年生
「やあ、アリス!」
「⋯⋯ケビン」
朝のホームルーム前、私の後ろの席に座るスレイプニール伯爵家の嫡男であるケビン・スレイプニールが話しかけてきた。いつもの朝のルーティンである。
ケビン・スレイプニール。
スレイプニール伯爵家嫡男。
真っ赤な髪と180センチを超える恵まれた体躯。さらには、授かった称号は『火魔法特級士』と非の打ち所のない選ばれた人間の一人だ。⋯⋯才能だけは。
「なー今度俺とガチの模擬戦やらない?」
「やるわけないでしょ?! 私は光魔法特級士よ! 戦闘に向いていないことくらいわかるでしょ!!」
「ハハッ、そりゃそっか。悪ぃ!」
「⋯⋯まったく!」
この調子である。
ケビン・スレイプニールは悪い奴ではないが、あまりにまっすぐな性格とこういう天然なところがあるため、正直私としては辟易していた。
いや、それはケビンが悪い奴だとかそういうことではなく、単に『面倒くさい脳筋ヤロー』ということだ。
「⋯⋯ところで、マリアはどんな感じだ?」
マリア。
平民出身の子で『神託の儀』において『水魔法特級士』を授かった女子生徒。ターコイズブルーの髪色が目立つショートカットの女の子。
実家の近くや周囲の関係者から『平民希望の星』などと言われ、また『水女神のマリア』という二つ名も持っている。
そんなマリアではあるが、魔法学園に来てすぐに貴族の生徒からいじめを受けているとの話をケビンから教えられた。
しかし、現状イジメが本当にあるかどうかの確証・証拠は見つかっていなかった。その為、ケビンはマリアを監視し、いじめをしている現場を抑えようと考えると⋯⋯⋯⋯そこでなぜか私に『協力者』としての白羽の矢を立ててきた。
「平民出身のマリアという生徒がいじめられているようなんだが⋯⋯」
そう言って、ケビンが私のところへ来るや否や、いきなりそんな話をおっぱじめ、挙句、
「いじめの解決にお前の協力が必要だ、アリス・オネスティ!」
と、私に協力を求めてきた。
正直、「面倒くさい」と思ったが、しかし、私はケビンのその申し出を二つ返事で了承。そして現在、私はケビンの『協力者』として行動している。
「今朝はまだ来ていないようだ」
「⋯⋯そうか」
今回のこの平民出身のマリアの件は、おそらく⋯⋯というかほぼ間違いなくケビン自身の『正義感』から自主的に行動しているだろう。ケビン・スレイプニールとはそういう『男』だから。⋯⋯しかし私は違う。
正直、『正義感』で彼に協力をしたわけでは決してない。協力をしたのは単に私にメリットがあったからだ。
そのメリットとは⋯⋯『人脈形成』。
今年のセルティア魔法学園には『神託の儀』で過去類を見ないほど多くの『特級士』を輩出した子供たちが入学しており(私もその一人なのだが)、その『特級士』の称号を授かった子供たちはすべて『魔法騎士科』に在籍している。
いわゆる『黄金世代』と言われている子供たちだ。
そんな『特級士』の称号を持つ者たちと一人でも多く『関係性を構築すること』⋯⋯これこそが、私がケビンの申し出を二つ返事で了承した理由である。
なんせ、うまくいけば『火魔法特級士』のケビン・スレイプニールだけでなく、『水魔法特級士』の称号を持ち『水女神のマリア』の二つ名を持つ平民出身のマリアともつながりが持てるのだ⋯⋯こんな美味しい環境、誰が断ろうか。
そんなことを一人脳内で考え、少し興奮していると、
ガラララ⋯⋯。
「お、おはよう⋯⋯ござい⋯⋯ます」
か細い声でボソボソっと挨拶をしながら教室に入ってきたのはその件の生徒⋯⋯平民出身でありながら『水魔法特級士』の称号を授かったマリアだった。
ちなみに彼女の挨拶は小さかったとはいえ、ちゃんと皆に聞こえる程度には声量はあったと思うのだが⋯⋯しかし、周囲の者たちは誰も彼女に挨拶を返すことはしなかった。
ふむ、これはチャンスじゃないかな。
ということで、私はすぐさまマリアに声をかけた。
「「おはよう、マリア(マリアちゃん!)」」
げぇっ!?
ケビン・スレイプニールと被って、変にハモってしまった!
最悪だ。
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mitsuzo




