S級との距離
第五話 『S級との距離』
昨日、晴れて(?)ルキアの奴隷兼教え子になった俺は、早速ギルド二階のルキアの部屋に招かれていた。
「おじゃましまー…………汚ったな」
「あ、きたきた。汚いけど入って〜。」
床に散らばった紙切れ、部屋の隅に追いやられた空いた酒瓶、積み上げられて埃を被った謎の本atc……
そのセリフで本当に汚いのは稀だろう。しかも自覚していて、来客があるのを分かっているのにコレだ。
その上、当の汚部屋の主人は肌着姿で背中を向け、なにやら木箱の中を漁っている。
……いくらなんでも人として酷すぎないか?
「ま、そこのベッドにでも座ってよ。ちょっと今……お、あったあった。ルー、これ取り出してくれない?」
「ったく……」
座ってだの取ってだの忙しいヤツ……。
ルキアが箱の底を指差した場所にあったのは、一冊の古ぼけて馬鹿デカい本だった。
「これは?」
「遺物と魔物に関して書かれた大図鑑。先人たちの知恵の結晶だよ。」
周りの取り出すときに邪魔になりそうなものを外に出しつつ、なんとか取り出すことができたがとにかく重い。
上から見たときは分からなかったが、手を広げてなんとか掴めるほど分厚い。
ルキアに促されるままスペースを見つけて床に置いてはみたものの……床が抜けてしまわないか心配だ。
「ありがと。じゃ〜あ〜……遺物と魔物、どっちのことからよく知りたい?」
「遺物。どうせ魔物は倒してくれるんだろ?」
「そうだけど……独り立ちする気ないの?別に咎めはしないよ?しないけど……そんなんじゃいつか絶対苦労するよ。」
「…………S級遺物について詳しく教えてくれ。」
耳が痛かった。それにそんなこと、自分が一番分かっている。
「……はいはい。S級遺物はこんなの見る必要もないほどゆーめいで、全部で7つあるのが知られているけどその内6個しか見つかってない。
僕の持っているもの含めて3つが『ローレンシア』に、もう3つが『バルティカ』にある。ここまで何か質問は?」
「……なんで6つしか見つかってないのに7つあるのが分かってるんだ?」
「お、珍しく鋭い。それはね、"遺物は再生成"されるからだよ。明確な後継人が決められていない遺物は3日の内に消失、"どこかにダンジョンを創り出して再生成"。
どんな原理でそうなっているのかは分からないし、その7つ目がいまどこにあるのかも分からない。」
「なるほど……まるで遺物が意思を持ってるみたいだな。ちなみに、それぞれの遺物の権能は?」
「一に僕の遺物、携帯魔力炉【スペース・ロケット】は無限の魔力。
二にマグス爺の賢者の石【エリクサー】は永遠の命。
三にフランソワ姐の調伏鞭【ドラゴンライダー】は魔物の使役。ここまでが『ローレンシア』のS級遺物。
『バルティカ』は、
四にハインライン卿の神の杖【ジャッジメント】は悉くの燼滅。
五にドルマン博士の座標指定転送窓【ドアマン】は文字通り任意地点へのワープ。
六にモイライ女王の運命の女神【ハーフ&ハーフ】は確率の強制。
七に所持者のいない絶対勝利剣【レーヴァテイン】は因果レベルでの勝利をもたらす。…………どう、覚えられそ?」
「いや、なんか強そうとしか分からん。というか所持者の名前まで分かっているのか……。」
「それほど強くて影響力があるってことだよ。たまーに僕たちS級は度々戦場に駆り出されて互いに牽制し合うんだよ。
……一部例外というか探検家ですらない奴もいるけど。ま、そもそもS級自体特例みたいなもんだし。」
「…………結局、俺には関係ない世界なんだろうな。そもそも魔物との戦闘も、遺物の発掘もしたことが無いし。」
「そんなに卑屈にならなくても……貴族こぼれなんだからまだまだこれからでしょ。」
……全く励ましになってない。
別にS級を目指している訳では全くないがA級はおろか次のC級ですら距離を感じてしまう。
自分は長い長い道のりのスタート地点に立ってすらいないような、そんな感覚を。
「……もっと、もっと色々教えてくれ。遺物のことも、魔物のことも。とにかく全部!」
スタート地点に立っていないならば立つまで。長い道が前にあるなら進むまでだ。
「イイね、その意気その意気。僕も君に色々覚えておいてもらわないと面倒だからね。頑張ってもらうよ?」
本で隔てた向こう側、視線の端でルキアが妖しく
笑った。
結局この日は魔物にも等級があることとか、自分の等級の具体的な上げ方とかを学んで一日が終わった。
……ついでにコイツの部屋の掃除もした。