祝勝会とこれから
第四話 『祝勝会とこれから』
「まずはルーカス、初ダンジョンおつかれさん!!カンパーイッ!」
「かんぱーい。」
「カンパーイ。」
俺の初依頼完了祝いという名目で開かれた、テーブル一つのミニ宴の乾杯の音頭をマスター殿が取る。
隣にルキア、向かいにはマスター殿。俺とマスター殿はともかく、ルキアが酒の入ったジョッキを持っているのには違和感しかない。
「で、どうだった?初任務は。荷物持ちだけだっただろうが、中々良いものを見られただろ???」
「まあ……はい。正直、本当にコイツが強いのか半信半疑でしたけど……あんなものを見せられたら何も。」
「それ本人が隣にいるのに言うの?別に良いけどさ。
……で、君はこの先どうするの?僕としてはずっと荷物持ちしてくれたら嬉しいけど。」
「そーですか。そういえばマスター、今日のあのダンジョンに遺物って無かったんですか?
コレが崩壊させてしまったので確認のしようも……」
「さあな。魔物の造ったダンジョンだから確率は低いだろうが……アイツら軍団アリはしばしば人を襲って巣へ持ち帰る。その襲われた人間が身につけていたらあるかもな。
ま、軍団アリにやられるぐらいの探検家の着けている遺物なんて高が知れてるがな!」
マスター殿から不意に飛んでくるシビアな言葉に、背筋がゾクッとする。
「で、ルーカスのコレからか。
そうだなァ……なあルキア、お前さんどうせ遺物には興味ないだろう?ならお前がダンジョンを攻略する、ルーカスはお前の全面的なバックアップをする、代わりに遺物はルーカスに譲る。どうだ???」
「……それって、エド公認の奴隷にして良いってこと?」
「ああ。もちろん、ルーカス次第だけど……なッ!」
……当の本人を置いて話を進めるのはどうかと思うし、そんな子供のように輝く目で見られたら断りにくい。
それにギルドマスターとS級探検家の会話に出て来ちゃいけないような言葉が聞こえた気がする。
「流石に奴隷は嫌です。それにそれじゃいつまで経っても独り立ち出来ないじゃないですか。
……せめて、コレから探検の心得とか戦いのイロハとか学べるとかのオマケがないと……。」
「それもそうだな。頼めるか??」
「え〜……毎日エドの手料理食べれるんならいいよ。
あとお酒。」
「じゃ、そういうことで!!お互い上手くやれよ!!!」
わりとあっさり自分のこの先を決めてしまった気がするが、安全、それもコイツの世話をするだけで金が稼げるんなら悪い話ではないだろう。
「そういえば、ルーってお金の為に探検家になったんでしょ?大体いくらぐらい必要なの?」
「いくら、か……とりあえず屋敷とお前に売られた武具一式、それに家具諸々だから……10ケタは必要だろうな。」
「じゅッ……そいつァ大きく出たな!!!……本気か?」
「マジですマジ。大真面目。」
「…………ま、気長に行こうぜ。会費は安いんだから、その内貯まるさ。」
「……ちなみに、遺物一つどのくらいで?」
「ピンキリだな。たとえ高いクラスの遺物だとしても利用価値が限られると値は付きにくい。
逆も然り、低クラスでも有用と判断されたなら良い値が付く。所詮、買い手次第だな。
例えば……お前さんが持たされたであろうあの水瓶、アレは家一つ買えてしまう値段だな。」
「…………おまっ、目ぇ逸らすな、おい。」
危うく、落としでもしたら目的まで大きく遠ざかるところだった。むしろ、あのとき具体的な価格を知っていたら緊張して……。なにも考えないでおこう。それが一番良い。
「まあまあ。それに稼ぐ手段は遺物だけじゃない。
高クラスの探検家になればたまにお上から直接依頼が来る。流石のお前さんも、隣国『バルティカ』と戦争中というか……まあ睨み合いをしているのは知ってるだろう?
だから、お上は俺たち探検家に国境近くのダンジョンの探検をしてもらいたいのさ。正規兵だと色々不都合だからな。」
……なるほど。ただ隣国と言ってもこの大陸『アークティカ』には我が国『ローレンシア』と『バルティカ』しか無いが。
『バルティカ』の連中は血気盛んで好戦的、因縁をつけれるような材料があればすぐに飛びつくのだろう。
「エド、次の依頼ってなんかある?できればDかCクラスのダンジョンで。」
「いや、今のところは無いな。まあ2、3日、遅くとも一週間もすれば依頼がくるだろう。それまでは日々鍛錬あるのみだなッ!!!」
「だって、ルー。それまで僕の身の回りのこと、よろしくね?じゃ、まずは僕の肩揉みして〜。」
「はいはい……。ってお前、俺の事も頼むぞ?少なくとも武具一式の分はな。」