ようこそトレジャーハンターギルドへ!
第一話 『ようこそトレジャーハンターギルドへ』
立て付けの悪い木のドアを開けるとアルコールの臭いが鼻を突く。
中は黄ばんで剥がれかかったポスターにガスが切れかかってぼんやりとしか光っていないランタン。
それなりに賑わっているようだが身なりの整っていない男や女、浮浪者のような奴までいる。
正直、金銭面で人のことはとやかくは言えないが、ここまで落ちぶれてはいない。
王国一のギルドと聞いて身構えていたがこれでは場末の酒場も良いところ、肩透かしをくらった気分だ。
『よお兄ちゃん!!!新入りかァ!?!?』
空気がビリビリと揺れるような大声の主が奥の階段から現れる。
THE・屈強な男と形容するのがふさわしい、腕も足も顔も毛むくじゃらで筋肉質な巨漢がそこにいた。
「……はい。このギルドに入か『イイぞ!!!』
「…………入会金h『タダだ!!!!』
「……『ようこそトレジャーハンターギルドへ!!!ガッハッハァッ!!!!』
……話が通じない。
というか人と話をする気さえ無いように思える。
『で、兄ちゃん。お前さんは当然"Dランク"からスタートだが……ア、いや待て、そもそもクラスがどうのとか分かるか?』
「いや、分かりませ『ようし分かった!!!この俺が一から説明してやろう!!!!』
……流石にもう慣れてきた。
この自称ギルドマスター殿、エドモンド氏によるとダンジョンと遺物、そして発掘家にはそれぞれ最低位Dから最高位Sまでの等級が割り振られているらしく、中でもS級の遺物は大国同士の戦争に用いられるほどの威力、効果があるそうだ。
『まァー発掘家が関わるのは大抵Aクラスまでだな!それと、使って良い遺物の等級は自分の等級まで!!だからお前さんはDクラスの遺物だけだな!!!』
言われなくても分かっていることだが、改めて自分が最低位の"D"だと何回も言われると悲しくなってくる。
「ところでマスター殿、自分の等級を上げるにはどうすれば?」
『そりゃあ勿論たっくさん遺物を発掘すれば自ずとだ!!因みに俺はAクラス!!!どうだ、意外と優秀だろう??コレ、その証拠な。』
そう言って彼が俺に見せたのは見知らぬ男性の横顔が描かれた純金の硬貨だった。
「……これは?」
『証拠だと言っているだろ?まったく。探検家にはクラスによって違う金属の硬貨が配布されるんだ。
お前さんのDクラスは青銅、そこから順番に銅、銀、金と上がっていく。ほら、お前さんのコインだ、受け取りな!!』
カウンター裏の引き出しを雑に探ると、彼は俺に青銅のコインを投げてきた。
渡された青銅のコインにも、マスター殿のコインと同じ男性の横顔が描かれている。
『でだ兄ちゃん、そのコインのお礼に1つ頼まれちゃあくれねぇか?あいにく今人手不足でな、ある人物とダンジョンに潜ってきて欲しいんだが……ア、もちろんお前さんの意志を尊重するぜ?できればで良いんだできればで。』
「……と言うと?」
さっきまで一言一言にエクスクラメーションマークがついていたマスター殿の声が急に小さく(そうは言っても普通の人と同じ程だが。)なる。
「いや、なんだ……その、ハッキリ言って問題児なんだソイツは。その代わりに発掘家としての腕前は一級品、お前さんの初発掘の成功は保証しよう。どうだ?一度会ってみるか?」
……この他人のことに対してあまり頓着の無さそうなマスター殿をして問題児と言わせる奴がいるのか。しかし、今は人生のどん底、目の前に垂らされた折角の糸を掴み逃すわけにはいかないだろう。
「会います。というかその依頼、謹んで受けさせていただきます!」
「……男に二言はないな??よぅし良いだろう!少し待っていてくれ!!!!」
現れた階段を登っていくマスター殿。
改めてこのギルド兼酒場を見回してみると所々明らかに不慣れな者の手で修復された箇所が見られる。それに所々焦げた跡だったり、床の木目にもシミが残っている。
……本当に自分はこの先、本当にココでやっていけるのだろうか。
「待たせたな、あァ、えーと
『ルーカスです。ルーカス・テイラー。』
ルゥカス!!!良い名前だな!!そして件の御人を連れてきたぞ!!」
マスター殿の背後、一緒に階段を降りたきたのは……少女?
「こー見えてもれっきとした成人で男!ほら、自己紹介。」
『ルキア。』
「もっと言うことあるだろーにまったく……、ま、この兄ちゃんが新しいお前のバディだ。お手柔らかに頼むぞ?」
髪は膝まで届くほど長いのに寝癖でボサボサ、パジャマか正装のどちらとも言えない黒いローブを纏っているその子供にしか見えない男?は明らかに眠たげ。……本当にコイツが一流の探検家なのか?
「ま、顔合わせも済んだことだし依頼内容を言わせてもら
う!依頼はBクラスダンジョン[軍団アリの巣]周辺のモンスター殲滅並びにダンジョンの踏破!
ルキア、お前はともかく……新人!!死ぬなよ!!!」