プロローグ
貴族ルーカス・テイラーは没落した。
見窄らしい、物乞い同然の商人の少しでも助けとなればと、その商人の商談に乗ってしまったのが運の尽きであった。
始めに、元々の行っていた絹織物の取り引きを彼に任せた。横流しされた。
次に、歳が理由で退職した使用人の代わりを探させた。グルの盗人を雇ってきた。
最後に、コレに関してはルーカスに落ち度は無いのだが、あろうことかその商人は着服した財で闇取引に手を染めた。
結果として商人は警吏に逮捕され、財産を使い込まれていたことは明らかになったものの、もう既に後の祭り。その上間接的にではあるものの闇取引に関わった罰として、財産の没収まで命じられたのだ。
没収の対象は彼が幼い頃、流行病で早くに亡くなった両親から受け継いだ邸宅から、お気に入りの磨き上げられたティーセットまで、とにかく様々なものが差し押さえられた。
結局、彼に残ったのは彼自身という肉体的資本と、何とか死守した兵役用武具一式、そして闇取引に関わったという不名誉な噂だけだった。
さて、ここでこの男ルーカス・テイラーが諦めるかと言われたら、答えは否。
彼は暮らしが豊かだった頃、実際に目にしたことはないがこの世界には遺物という摩訶不思議な宝物があり、それが高く売れるのだと噂を聞いたことがあった。自分には縁の無い話だと頭の片隅に追いやられていたその噂話が、窮地に立たされた今、頭の中核へと引っ張り出され、彼を奮い立たせた。
「……やるしかない。」
遺物の採取には生命の危険が伴うとも言われていたような気がするがそんなことどうだって良い。どっちにしろ、このままボーッとしていたって野垂れ死ぬだけなのだ。
「俺なら……出来る。」
重い腰を上げてボロい麻袋に武具一式を詰めて引きずり、彼は明日にも他人の手に渡る屋敷を後にした。
全ては再び貴族として華々しい生活を送るために、そして彼の生まれ育ったこの家を取り戻すために。