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唯乃芽レンゲ 短編集

あの夏のあの時に【短編・三千字程度】


「も~い~かい!」


神社の境内でそう叫んでみるが…

勿論答えてくれるのは蝉の鳴き声だけだった。


「…なんてな。」


俺は独り言になってしまった自分の言葉を照れ隠しでなかった事にした。



子供の頃、俺は親父が転勤ばかりだった関係で転校を繰り返していた。

このド田舎もその一つ…

住んでいたのも大体半年ほどだ。

では何でそんな半年しか住んでいなかった場所にわざわざ足を運んだのか。

それは小学校の同窓会に呼ばれたからだった。


「いやいや、まてまて、俺その小学校の卒業生じゃないからな?」


そんな問いも、若者不足を訴えられれば同情もする。

そして何より、幹事が言うには他の男二人が既に結婚してて肩身が狭い…との事。

田舎の結婚早いな、と驚きつつも自分も大学に入ってから出来た彼女にフラれたばかりだった。

別に不倫なんかしてないのに不倫を疑われる納得いかないものだったが…

そんなこんなでこんなド田舎まで来たというわけだ。


ただそれは理由の一つに過ぎなかった…


『10数えるまで絶対に…やっぱ100!100数えるまで絶対に目を開けちゃダメだよ!』


………


……



俺はそっと唇を撫でつつも子供時より小さくなった境内を後にするのだった。


――――――――――


「ねえ、かくれんぼしよう!!」


「いや、俺今から引っ越しで…」


「うん、だから…大きくなって、またここに戻ってきたら見つけて欲しいな…って。ダメかな?」


「…お、おう。」


「もしね…もし、見つけてくれたら…」


………


民宿の部屋でそんな夢を見ながら目が覚めた。


俺はあの時なんと言ったんだったか…


ただ一つだけ思い出せる。

あの子に言われるのだけはカッコ悪いと思ったんだ…

だからテンパりながらも俺が言ったんだ。

ただカッコつけたかっただけの過去の自分に呆れて笑ってしまう。



あの子と出会ったのは転校した学校の教室だった。

両手で数えられるくらいしか人がいない教室でいつも一人でいる女の子。

他の奴等とはすぐに友達になれたけどあの子とは最初話すことも出来なかった。


ある時、田舎の道を一人で探検して歩いていた。

それは田舎という物珍しい環境と、テレビで見たサバイバル番組に影響を受けての事だったが…

怖い者知らずにドンドンと田舎道を進んでいく。


………


そろそろ来た道を覚えるのが危うくなってきたかな…という所であの神社を見つけた。

面白い物を見つけたと、ここを探検のゴールに決め境内に入っていく。

…するとそこには女の子が一人で教科書を読んでいた。

それがあの子だった。


「よおっ!」と声をかけると、あの子はこんな所に人が来るとは思ってもみなかったのか相当ビックリしていた。

しばらくお化けでも見ているかのようなリアクションをされたが、次第に転校してきた俺の事を思いだしたようだ。

そんなあの子の姿をみて…俺は一つ頼みごとをした。


「なあ…帰り道わからなくなったんだけど教えてくんね?」


あの子は「あ、…うん、いい…けど…」と言ってオドオドしながらも道案内をしてくれた。


「田舎の道ってグニャグニャしてよくわかんないんだよな…」


「そうだったかな…?一本道じゃない?」


「そうか?」


本当の所は道が分からなかったってのは半分は嘘だ。

じゃあ、なんで話しかけたかって…?

可愛かったからだ、転校を繰り返していた俺が保証する。


「じゃあ、また明日な!」


「え?…あ、うん、そうだね…また明日…」


そう言って、別れる俺たち…

しばらく歩いてから大事なことを言い忘れた事に気が付いた。

だから、振り返って手を振りながら叫ぶ。


「ありがとな~!!」


あの子も一瞬戸惑いながらも小さく手を振り返してくれた。



次に日からはあの子に話しかけるようになった。

そしてあの子も次第に話してくれたり一緒に遊ぶようになってくれて…

帰りは方向が一緒だからと一緒に帰り、途中で神社に寄って日暮れ間近まで遊んでから帰る。

そんな毎日だった。


学校では他の友達とも遊んでいたけど、あの神社に行くのはいつもあの子と二人きりだった。

何故あの時の俺は他の奴らを誘おうとは思わなかったんだろうか…

今にして思えばあれは多分…独占欲?

…違うな、あれはもっと単純な感情だった。

きっとあれはただの初恋だ。



それからずっと二人で遊んだ。

それは俺の転校が決まって夏休みに入ってからもずっと…


神社の中で二人は色んな遊びをした。

鬼ごっこ、虫取り、神社やその周りをお宝がないか探検したり…


一緒に探検して見つけた枯れ井戸の中を基地にしたりもした。

ロープを使ってずっと下まで降りて行って、暗くて狭い井戸の中で肩を寄せ合う…


「ねぇ…手、繋いでいい?」


「えぇ!?えと…いい、けど…」


「ここ、蝉の鳴き声聞こえないんだね…」


「そう言えばそうだな。」


「静かだね…」


「ああ…」


――――――――――


同窓会の日

俺は友人にビッグゲストとして紹介された。

勿論他の奴らは盛大に俺の事を…誰だっけと首を傾げた。

薄情な奴等…と思うと同時に当たり前という感情が生まれた。

たった半年で呼ぼうとした友人の方がおかしい。


それでも何とか、「ああ、そんな奴もいたな~」くらいは思い出してくれたようで助かった。

しばらく地元のいつもの面子よりも都会の珍獣とばかりに根掘り葉掘り質問攻めにあった。

そして、田舎者の酒のペースに惑わされず自分のペースでチビチビ飲む俺。

ふと、周りの人間達を一人一人確認してみるが…あの子はいないのか…


「どうかしたのか?」


そう聞かれたので、どうせだからとあの子の事を聞いてみた…


「ああ…あの子は…なんて言うかな…」


「行方不明になっちゃったんだっけ?」


「………え?」


………


あの夏休みの後、あの子は学校に来なかったらしい。

数日たっても登校せず家に連絡しても不明瞭な回答。


以前からおかしいと思って相談に乗ろう話しかけてはいた先生。

不審に思って警察に確認してほしいと通報したのだとか。

その結果父親が漏らしたあの子に対しての虐待の事実。


この田舎町に住む人間は皆、あの父親がおかしい事に薄々気が付いていたらしい。

なので子供達にもあまり近づかないようにさせていたらしい。

そして、最後にいなくなった日…

そいつはあの子に対して"誰でもいいから他の男に抱かれて来い"と家を追い出したのだとか…


………


……



最後にもう一度あの神社に行った。

そして、あの夏の頃の記憶を頼りに隅々まで探しまわる。

神社の裏、神社の下、神社の中、茂みをかき分け…


あの時の事を思い出していた。


あの時、あの子に言った言葉を…


『もしね…もし、見つけてくれたら…』


「その時はずっと一緒だ!!」


そして、蝉の鳴き声が途切れ…

枯れ井戸の中であの子はあの時と同じ笑顔で言った。


『ありがと!』


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