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第9話 隠れ家レストランHANA (4)

 何だかんだと言いつつ結局最後まで手伝った春海のお蔭で片付けを早々と終わらせると、花江が差し出してくれたマグカップを受け取りカウンターに座った。


「お疲れ様」

「本当よ~。私、家でもこんなに家事なんてしないのに」


 歩の直ぐ隣に腰を下ろした春海が、ぼやきつつも楽しそうにコーヒーに口をつけ一口飲んだ途端、不思議そうにカップを見た。


「あれ?……もしかして、お酒入ってる?」

「そう、ブランデー入り。

 飲みやすくて私は好きなんだけど、どうだった?」

「うん、私も好きかも」

「それなら、これが手伝い分の手間賃ってことでお願いね」

「ちゃっかりしてるわね……分かったわよ」


 美味しそうに飲む春海につられるように、自分のカップを見つめると、ミルクと砂糖が多めのカフェオレがカップに入っていて、何故か子供っぽく思えてしまう。ブラックは難しそうだけど、せめて砂糖無しで飲めるようになりたい、そんな事を考えていると飲み終えたらしい春海が立ち上がった。


「それじゃあ、私そろそろ帰るわね。

 ご馳走さま」

「そう言えば、春海はどうやって帰るの?」

「勿論、お酒飲んだから歩いて帰るわよ。今日はそのつもりで車置いてきたし」

「じゃあ……」


「私が送っていく!」


 花江の言葉へ被せるように立ち上がった歩に、二人が少し驚いた表情を浮かべる。


「!……ええと、……い、色々、その、……助けて、もらったから……」


 焦りながら、徐々に小さくなる言葉と俯く視線。黙ったままの二人に、やっぱり、花江の方が良かったのかと恐々と顔を上げると、キラキラとした目で春海が見ていた。


「ちょっと、花江さん。

 歩ちゃんすっごく可愛いんだけど……」

「私の可愛い姪っ子だから当然よ」


 二人の会話に、ぼっ、と頬が熱くなるのが分かった。


 ◇


 車のエンジンを掛け店の入り口まで寄せると、助手席のドアが開く。


「じゃあね、花江さん」

「こちらこそありがとう。

 楽しんでね」


「宜しく、歩ちゃん」

「は、はい、お願いします……」


 春海から大まかな住所を聞くと、車はゆっくりと走り出す。狭い空間に二人きりという状況のせいで、普段から安全運転を心がける歩が握るハンドルはぎこちない。


 折角隣に春海がいるのだし何か話したいと思うものの、気の利いた話題が思い付かず黙ったままでもどかしさを覚える。春海の自宅に着くのにどれ程ゆっくり走らせても10分もかからない。少しでも長く傍にいたいのに生真面目な性格が邪魔をして、不自然なスピードにならないようにアクセルを踏んでしまう自分に焦りながら何とか話題を探そうと頭を捻らせる。


「疲れてるのに、わざわざ送ってもらって悪かったわね」


「……い、いえ」


 歩を労ってくれるような落ち着いたトーンの声に、少し遅れて返事をすると、再びの沈黙が怖くて恐る恐る口を開いた。


「今日は、本当に、ありがとうございました」


「ん?……私、何かしたっけ?」


「お皿を落とした時とか、片付けとか……」


「あ~、あれね」


 ようやく思い出したといったように、くすくすと春海が笑うのが視界の隅に入った。


「あんなのお礼言われるうちに入らないわよ。

 歩ちゃん、いつも頑張ってるじゃない」

「……そんな事ないです」


 誉めてくれた春海に否定した言葉を後悔して、素直になれない性格を恨みつつ途切れた会話に下唇を噛む。後悔ばかりの歩を気にすることなく、春海が少し先を指差した。


「あ、その白いアパートの前で停めてくれる?」

「分かりました」


 街灯が等間隔に並んだ夜道はまだ午後10時を過ぎたばかりなのに、人も車もいない。車を路肩に寄せて停車すると、春海がドアを開けて車から降りた。


「ありがとね、歩ちゃん。

 お礼にお土産買ってくるから、楽しみにしてて」

「いえ、大した事してないですし……」


 遠慮する歩の言葉を分かっていたかのように春海が笑う。


「こんな時は遠慮しなくていいの。

 素直にお願いしますって言っておきなさい」

「……お願い、します」

「ん、宜しい」


 満足げに歩を見た春海が車から一歩離れる。


「おやすみ」


 窓越しに聞こえた言葉がひどく優しくて、泣きそうになった。


 何か伝えたくて、話したくて──


 口を開いても言葉は出ず、結局、会釈すると車のギアを入れてその場を後にした。

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