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第44話 おおかみ小学校 (3)

「それでは今日お話をして下さった鳥居さんに、感謝を込めてお礼を言いましょう」


「ありがとうございました!!」


 体育館に響き渡る子供たちの声に「こちらこそありがとうございました」と返して講話を終える。


 予定より少し早めに終わった授業にその分伸びた休み時間を喜びながら外へ駆け出した子供たちを見送って肩の力を抜く。


「本日はありがとうございました」

「あ、校長先生。

 片付けは私がしますので」

「いえいえ、これくらい皆ですればすぐに終わりますよ」


 パソコンやテーブルの片付けを手伝う校長を引き留めるも、気にする様子もない。率先して動く校長と当たり前のように手伝ってくれる他の先生にもお礼を言って体育館を後にした。



「いやぁ、すごく勉強になりましたよ」

「それなら良いんですけど……」


 山下の感想に安堵するも、春海にとっては納得いくものではなかった。知らずのうちに早口になってしまったり、子供たちの質問に上手く説明できなかったりと反省点ばかりが頭を過る。その上、春海の説明に飽きたのか途中で落ち着きなく立ったり座ったりする一人の児童の存在が春海のメンタルを大いに落ち込ませていた。


「山下先生、山下先生!」


 玄関まであと数歩というところで、春海と山下の間に割って入った子供に山下が腕を引かれた。予想以上に強い力だったらしく、倒れそうになる山下にひやりとしながら春海も足を止める。


「どうしたの、タケルくん」

「僕ね、この人と会ったことがあるんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「今日もちゃんと話聞いてたよ」

「よく頑張ったね、偉い」


 しゃがんだ山下に向かって矢継ぎ早に話す子供は春海に視線を向けることなく、ただひたすら山下を見ている。ふと、『タケル』という名前と、今日春海を悩ませていた子供が同一人物であることに気がついた。再び駆け出していったタケルを見送る山下が「お待たせしました」と立ち上がった。


「先生も大変ですね」


 少子化の時代、子供を甘やかす親も少なくない。様々なタイプの子供がいるからには手をもて余す存在もいるだろう。何度か先生に付き添われて元の位置に座っていたタケルと無関心そうな母親の態度を思い出しながら色々な意味を込めた春海の言葉に、一瞬きょとんとした山下が困ったように笑う。


「タケルくんはそんな子じゃないんです」


 どこか聞き覚えのある口調に目を丸くする。


「彼はすごく器用だし、自然の事ならうちの学校で一番の博士なんです。今度学習発表会で彼の作品を展示するので、良かったら観に来て下さい」


「案内状送りますから」の言葉に曖昧に頷くと始業のチャイムが鳴り、次の授業を知らせる。山下に笑顔で送り出されたものの、もやもやした想いを抱えたまま校門を出た。

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