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第39話 体験イベント (8)

「これ、この間の写真ですか?」


 町報に載せる記事を書くため、幾つかまとめて置いた写真に気がついた勇太がデスクを覗きこむ。


「そ。

 良い感じに撮れてるでしょう」

「あー」


 勇太が手に持った写真は広報用で、ありきたりの構図が多いありふれた写真だ。肯定とも否定ともつかない声で写真を捲っていく勇太が一通り見終えたタイミングで、別に置かれた写真の束を渡す。


「おー」


 声のトーンを賛辞に変えて、勇太が一枚一枚丁寧に写真を眺めだした。子供達の芋掘りの間に声をかけずに撮った写真は、誰もが自然体で、こちらに視線が合わなくとも笑顔で溢れていた。


「お、この一枚、良いっすね」

「それね。私も奇跡の一枚だと思うわ」


 そう言って勇太が取り出したのは、歩と寛太が焼き芋を食べていた時の一枚。二人が笑いあっている姿は幸せそうで、見ているこちらまで心が温かくなる。


「春海さんって写真撮るの上手いんですね。それともモデルが良かった?」

「勿論私のセンスって言いたいけど、きっとモデルよ。

 私初めて見たときからずっと思ってたんだけど、歩の笑顔って凄く良いと思わない?」

「確かにそうですね。

 俺も歩のこんな表情見たの初めてかも」

「でしょう?

 自然体で笑うって滅多になくて、他にも何枚か撮ったけど結局ぎこちなかったのよ」

「ふーん、疲れてたんじゃないですか?

 あの時の歩ってチビッ子にめっちゃ好かれてたから」

「そうかもね」


 くつくつと笑う勇太が目を細めて写真の歩を眺めている。その表情があまりに優しくて少しだけ心が騒いだ。


「勇太。

 あんた彼女いるわよね。まさかとは思うけど……」


「………はぁ?」


 言葉を濁して、暗に歩に気があるのか訊ねると、眉をひそめた勇太が、しばらくして呆れた様な声をあげる。


「何? 春海さん、もしかしてオレが歩に気があるとでも思ってたの!?」

「いや、まあ、否定はしない、けど……」


 その口調から既に答えは分かったのだが、自分から訊ねた以上話を打ち切るわけにもいかない。歯切れ悪く答えると遂には勇太が大笑いする。


「あはは、ウケるー!

 どうしたの? オレが歩と仲良くなったのが気に入らない訳?

 春海さん、もしかして焼きもち妬いてる? あははっ、痛ッ!!」


 腹を抱えて笑う勇太にイラついて、爪先を思い切り踏みつける。痛みで大声を上げる勇太から写真を取り返すと、追い払うように手を振った。


「うっさいなぁ。さっさと仕事しろよ」

「へいへい、しますよ。

 ったく素直じゃないんだから。オレが好きなら好きって言えば良いじゃない」

「はいはい、大好きよ」


 その気がないからこそ通じる冗談に真顔で返すと、勇太が上機嫌で離れていく。気を取り直して、目の前の画面に意識をむけるも先程の勇太の言葉が頭から離れない。



 ──もしかして焼きもち妬いてる?


 気づかなかった気持ちを指摘された事に密かに動揺している自分がいたから。


 確かにこの感情は嫉妬なのだろう。

 だけど、それは勇太にではなく、勇太とはあれほど簡単に打ち解けたくせに自分には未だ壁を作って踏み込んでくれない歩に対してだった。

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