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第37話 体験イベント (6)

 収穫したさつま芋を参加者にお土産として渡すと、手を振る子供たちを見送って、体験イベントは終了となった。頑張って作業した甲斐あってか渡されたビニール袋はずっしりと重い。


「お疲れ様でした」


 周りに倣うように片付けを手伝いようやく解散となった途端、どっと疲れが出た。あの後、何故か鬼ごっこをするはめになり、ひたすら子供達を追い回した。体育祭が終わってからもランニングは続けているものの、子供たちのパワーには勝てそうもない。


「お疲れさん」

「あ、お疲れ様です。

 お芋沢山ありがとうございます」


 春海を待つ少しの間だけでもと座り込んだ歩に白井が笑う。


「本多さん人気者だったね」

「私、同年齢に思われてたんですかね」


 最後まで『ちゃん』呼びだったし、と呟けば、隣で白井がまた笑った。


「今日の芋掘りどうだった?」

「疲れたけど楽しかったです。

 お芋も凄く美味しかったし」

「それなら良かった」


 目を細めた白井が収穫を終えた畑を見回す。


「本多さんはこの町出身じゃないよね?」

「え、はい」


 質問の意図が分からないまま出身地を告げると、白井が納得したように頷く。


「そうでなくちゃ芋掘りなんて参加しないよ」

「どうしてですか?」

「この町の人は大半が良くも悪くも農業に関心がないんだよね。生活の一部って感じでごくありふれたものなんだよ」


「おかげで子供たちも上手いでしょう?」と続ける白井の言葉に同意する。歩の周りに集まった正太を始めとする高学年の子たちの手つきは驚くほど慣れたものだったから。


「だから、地域起こしプロジェクトの人がこの企画を持ってきた時、正直乗り気じゃなかったんだよ。

 僕たちみたいな農家はともかく、どこの家庭でもやっている芋掘りをわざわざ役場まで引っ張り出してする必要があるのかって」


 遠くを見つめるような表情の白井はその時の事を思い出していたのだろう。苦笑いした横顔の後に振り返った表情からは負の感情は見えなかった。


「だけど、実際やってみると意外と楽しいものだね。

 来年また企画するかは分からないけど、とりあえずやって良かったよ」


 ◇


 その後、色々とお互いの事を話して「暇があったら食べに行くから」と別れた頃、打ち合わせを終えたらしい春海と勇太が近づいてきた。


「そろそろ帰るけど歩けそう?」

「はい、大丈夫です」

「お前、全然大丈夫じゃないだろう。

 ほら、荷物持ってやるから貸せ」

「え? 本当に大丈夫ですから!?」

「良いじゃない。勇太にお願いしなさいよ」


 お土産でもらったさつま芋の袋を持った勇太がさっさと歩き出してしまった為、春海と二人で後を追うように歩く。


「歩、お芋掘りどうだった?」

「凄く楽しかったです」


 疲れたけど、と言葉を付け加えれば、春海が笑う。


「写真が出来たら持ってくるから、楽しみにしていてね」


 最後に皆で撮った記念写真の事だろうと思って頷くと、車の前では既に勇太が待っていた。


「荷物、ありがとうございます」

「おう、気にすんな。

 次のイベントでも呼ぶから手伝えよ」

「え、それは……」


「遠慮するなよ。どうせ暇だろう?」

「勝手に決めないでくださいよ!

 私だって……!」


 勢いで言ったものの予定などあるはずがなく、上手い切り返しも出来ずに口ごもる歩を勇太が面白そうに笑う。


「とりあえず参加にしておくから、予定が出来たら連絡しろよ」

「~~~!!」


 満足げな表情で立ち去った勇太に言いくるめられて悔しがっていると、驚いた顔で春海が見ているのに気がついた。

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