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第34話 体験イベント (3)

 歩の住んでいる地区とは町の中心部を挟んで反対の地区に近づくと、人家よりも田畑や林が圧倒的に多い。見慣れない風景にきょろきょろ視線を動かしていると、やがて畑ばかりが広がる一の脇にに何台も車が止まっている場所が見えてきた。


「あの畑が今日の活動場所よ」


 指差した方向を見れば既に五、六人程が集まっており、勇太の姿も見える。車を降りて春海の後ろをついていくと、二人が近づいたタイミングで輪になっていた集団から「おはよう」と声を掛けられた。


「勇三さん。

 彼女、本多歩さんです」

「あぁ、『HANA』の店員さんね」


「本多です。あの、今日は宜しくお願いします」


 車を降りる際に春海が集まっている人達の名前を教えてくれていたので、目の前にいる人が地域起こしプロジェクトの所長だということが分かった。『追加の参加者として話を通してある』と言っていた春海の言葉通り、すんなりと受け入れてもらえたことにほっとしつつ、ぺこりと挨拶する。


「今日は参加ありがとう。

 うちの職員がいつもお世話になってるね」

「いえ、そんな事ないです」

「折角来たんだから、芋をたくさん掘って持って帰りなさい」

「はい……」


 返事に困って笑い返すと、少し離れた場所で話していた勇太と一人の男性が近づいて来た。


「おはよーございます。

 春海さん、受付で変更があったらしいからって向こうで春海さんを探してたよ」

「え、マジ!?

 ごめん、歩。ここで待ってて」

「はい」


 春海が走っていくのをぼんやりと見つめていると、勇太の隣の男性が声をかけてきた。


「おはようございます」

「あ、おはようございます」


 真っ白なスポーツウェアに身を包んだ二十代後半くらいの男性に見覚えはないものの地域起こしプロジェクトのメンバーだろうか。


「白井さん。その子、追加の参加者の本多さん」

「そうなんですね。

 参加ありがとうございます」


「歩、このイベントの責任者の白井さん」


 誰だろうと不思議に思っていると勇太が紹介してくれ、慌てて頭を下げる。


「え、あ、えっと! 今日は宜しくお願いします!」

「いえ。こちらこそ」


 責任者ということは畑の持ち主だろうと推測するも、歩の想像する『農家』というイメージとは全く駆け離れている。

 不思議そうに見る歩の視線に気づいたのか、白井が目深に被った白いキャップの下から視線を向けた。


「何でしょう?」

「その、農業してる人っぽくないっていうか、私が想像してた人と全然違っていたので、……ごめんなさい!!」


 目を丸くする白井に気を悪くしたかと慌てて謝れば、傍で聞いていた勇太が吹き出した。


「お前、おもしれーな!」

「だって……」


 けたけたと笑う勇太に困っていると、白井が笑みの残る顔を向ける。


「本多さん、でしたっけ?

 あなたの想像した農家って麦わら帽子を被ったマッチョなおじさんが土仕事するっていうイメージ?」

「う、……はい」


「めっちゃベタなイメージだな」


 勇太のツッコミがぐさりと突き刺さる。

 家が非農家である歩にとって農業と言えば、肉体労働で泥だらけになりながらきつい仕事をするというイメージしかない。だからこそ、ファッションに疎い歩でも知っているロゴのスポーツウェアで身を固め、マッチョとは程遠い細身で、多少日焼けはしているものの、いかにも好青年といった白井の姿を見て驚いたのだ。


「今日は指導役だからこんな格好だけど。

 最近の農業ってね、機械化が進んでて殆ど力仕事がないんだよ。

 さつま芋に関しては苗を植え付けるくらいで、あとは全部機械作業。だから、楽っていえば楽な仕事かなぁ」

「えっ! そうなんですか?」


「大変なのは否めないけどね」最後にそう付け加えた白井の雰囲気からは言葉通りの感じは受け取れない。


「初参加って聞いてるし、分からない事があったら何でも聞いて、楽しんでいってよ」

「ありがとうございます」



 他の人にも挨拶するべく離れていった白井を見送ると、集合の声が掛かった。


「歩。

 集合掛かったから行くぞ!!」

「え。私ここで待ってます」


「何言ってんだよ、お前も関係者だろう。

 子供が遠慮なんかするなよ」

「わ、私、子供じゃありません!」

「未成年は子供だろうが」

「違いますってば!」

「はいはい、歩ちゃん行きますよー」

「子供扱いしないでください!」


 子供扱いされたことに反論する歩を軽くあしらいながら、勇太が集合場所に向かってさりげなく歩き出す。


「聞いてます? ゆ、勇太さん!」

「お、オレ今初めて歩から名前呼ばれたかも」

「っ!?」

「なんだ? 名前呼んだくらいで照れるなよ」

「っ、照れてませんから!」

「もしかして惚れたか?」

「惚れませんから!」


 にやにやとからかう勇太と言い合う歩もいつしか集合場所に向かっていた。

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