第33話 体験イベント (2)
日曜日の朝、二週連続の早起きに苦戦しながら目覚まし時計を止めると、何とかベッドを抜け出して支度を始める。
動きやすい服装でと言われていたので、薄手のシャツにジーパンを履き、買ってきたばかりの帽子と軍手を持った。
「帽子、タオル、軍手……忘れ物無いよね」
体験イベントのプリントにあった『現地集合』の言葉に土地勘のない歩が困っていると「一緒に乗っていけば良いじゃない」と春海が誘ってくれ、結局春海の車に乗せてもらうことになってしまった。
「うー、どきどきする……」
イベント自体もそうだが春海の車に乗ることも初めてで、高揚か緊張か分からないまま高鳴る胸の鼓動を感じながら時間を確認し、靴を履いた。
外に出ると雲一つない青い空が広がっていて、雨の心配はなさそうだ。そわそわし続ける自分を落ち着かせるため駐車場を歩き回っていると、見覚えある黒の軽自動車が止まり運転席の窓が開いた。
「お、おはようございます!
今日は宜しくお願いします」
「おはよ、こっちこそ宜しくね。
乗って、乗って」
「は、はい、お邪魔します」
初めて乗る助手席のドアを開ければ、普段春海のつけている香水が鼻をくすぐる。深く息を吸い込みたい衝動を押さえ込んで、シートベルトを差し込むと、車はゆっくり走り出した。
春海との距離が近すぎていつも以上に意識してしまい無口になる歩と、運転に集中したいのか黙ったままの春海。町の中心部に向かう車が赤信号で停まったタイミングで、春海が隣の歩を見る。
「歩、もしかして、緊張してる?」
「いえ……あの、はい」
どっちよ、と笑う春海につられてぎこちなく笑えば、少しだけ緊張がほぐれた。
「そんなに身構えなくても良いわよ。
皆でお芋を収穫した後、ちょっとした親睦会を開いておしまいだから」
「懇親会、ですか?」
「そう。
農家の方とお茶をしながら歓談したり、今日の感想を聞いたりするみたいな。……そういうの苦手?」
「あ~」
イエスともノーとも言わない歩に、春海が笑う。
「接客業なのに人付き合いが苦手って歩らしいわね。
まぁ、簡単な感想で良いから安心して」
明らかに気遣われているのが分かり、苦笑いしながら頷くと春海も微笑んでくれた。