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第32話 体験イベント (1)

町民体育祭が終わった週の火曜日、春海と勇太が『HANA』の入り口をくぐると、ドアベルの音に振り向いた歩が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


「やっほー、この間はお疲れさん」

「こんちは」


 当たり前の様にカウンターに陣取った二人に、花江がフライパンから手を離さないまま笑顔を浮かべる。


「いらっしゃい。

 てっきりしばらくは筋肉痛で来られないと思ってたわ。

 あら、美奈ちゃんは?」

「今日から出張。

 大分治まったんだけど、昨日とかマジ死にそうだったわ……っていうか、花江さん、平気な顔してるけど筋肉痛とかなかったの?」


「一応日頃から運動してるから」

「は~、凄。歩も若いから筋肉痛なんてなかったでしょう?」


 突然話を振られた事に驚きつつ、グラスを運んできた歩が口ごもる。


「あ、えっと……」

「実は今もあちこち湿布貼ってるのよね」

「花ちゃん!?」


 秘密をばらされた様な歩の悲痛な声に皆が笑い合い、恥ずかしそうに歩がカウンターの奥に逃げ帰った。


 ◇


「そういえば体験イベントは今度の日曜日ね。

 参加者って結構集まったの?」


 春海と勇太だけになった店内で食後のコーヒーを飲みながら談笑するうちに、今度の日曜日に行われる体験イベントについて花江が尋ねると、春海と勇太の表情が曇った。


「それがあんまり集まらないのよ……」

「あら、そうなの?」

「俺たちは知らなかったんですけど、この辺の人たちって大概自分達で食べる野菜は自分達で育てるっていう気風らしくて。

 芋掘りなんて珍しくも何ともないっていうか、全く興味を持ってくれないんすよ」


「それは大変ね」

「一応、町内の小中学校にも声かけして少しでも参加者を増やすつもりなんだけど、このままだと協力してくれた農家の方に申し訳なくてさぁ」


 悲壮感漂う二人の雰囲気から推し測るに、余程参加者は少ないらしい。


「あの、私で良ければ……参加出来ますけど」


 恐る恐る片手を上げると、春海と勇太の表情がぱっと明るくなる。


「マジか!?」

「っ!?

 は、はい」

「やったわ!是非お願い!!」


 二人の喜びように戸惑いつつ了承するも、体験イベントがどういうものか想像出来ない。


「私、お芋掘りってやったことないんですけど……結構大変なんですか?」


「そんな事ないぞ。

 農家の人が最初に掘り方を説明してくれるから、初心者でも大丈夫……のはずだよな? 春海さん」

「そ、そうね」


 歩の問いかけに何故か曖昧な返事をする二人を不思議に思っていると、黙って聞いていた花江が二人を見る。


「もしかして、春海も勇太君もやったことないの?」


「実は、そうなのよ。

 だから、お芋掘りって聞いて凄く楽しみにしてたんだけど、肩透かしを食らったみたいな感じでさぁ」

「最悪、オレたちだけで掘らないといけないかもって考えてたんすよ」

「結局誰のためか分からない企画になっちゃいそうで。

 だから歩が参加してくれるなら本当助かるわ」


 困った様に頷く二人の様子に、断るという選択肢が消えていく。


「そういう事情なら頑張らないとね、歩」


「あ、……う、うん」


 春海と勇太だけでなく花江にまで背中を押されてしまい、引くに引けないまま急遽参加することになってしまった。

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