第25話 町民体育祭 (8)
女性陣に次いで男性陣の自己紹介も終わった後、一番外のレーンに立ってスタートを待つ。笑顔でこちらに向かってきた春海が隣に並んだ。
「あぁ、めっちゃ緊張したわ~」
「全然そんな感じに見えなかったです」
「本当よ~。 ああ見えて結構必死に考えてたのよ」
けらけらと笑う春海からは言葉通りの印象は受けない。軽くストレッチをする春海にトラックの内側で待っている女性から「春海、しっかり走りなさいよ!」と声がかかった。
「任せといて!」
「きっと打ち上げのビールが美味しいわよ!」
「そうね!
打ち上げの為に頑張るわ!」
春海達のやり取りに緊張した雰囲気がどことなく緩み、皆が笑顔になった頃開始を告げる笛が高らかに響いた。
乾いたピストルの音が鳴り、本部テントの方でスタートが告げられる。一番最初に抜け出したのは美奈で、高校生の間から身体一つ分飛び出したまま走ってくるのを見て春海が慌ててレーンの内側に回る。
黄色のハチマキを探すと出遅れたらしく、団子状になった集団の後ろから二番目に見えた。
「頑張れー!!」
少女の必死な走り方に思わず声を上げるも、最終コーナーに差し掛かる頃には最後尾になっていた。次々とバトンが受け渡されていくのを横目で見ながらタイミングを伺い、少女がリレーゾーンの手前まで来た瞬間に前を向いてスタートを切った。
「は、いっ!」
後ろから聞こえる足音に神経を集めながら手の中にバトンが受け渡された感触を確認すると、一気にスピードを上げる。目の前を走る二人を外側から追い抜き、二メートルほど離れた三番手を目指す。
足を上げて、腕を振って、ぐんぐん近づいて、
最終コーナー手前で抜き去った後、残りは前を走る二人。コーナーに足を取られないように気を配りつつ、スピードを緩めずに前だけを向く。リレーゾーンの向こうでは花江が手を振るのが見えた。
あと少し!
最後の直線に気力を振り絞って、スパートを掛ける──
「っ! 花ちゃん!!」
ゾーンエリア内のぎりぎりでバトンを渡すと、勢い余ってフィールドに身体ごと転がり込んでしまった。
「順位は!?」
身体の砂を払うより先にリレーの行方を追うと、花江がトップで走っていた。二位との距離をぐんぐん広げ、その差を十メートル以上離したまま、アンカーの女性にバトンを渡す。後続に追いつかれそうになったものの、歩たちのチームは一位でゴールテープを切った。