第21話 町民体育祭 (4)
日曜日の早朝、町内に響き渡るように鳴った花火の音に瞼を開けると、外は眩しいくらいの晴天で、思わず目を細めた。
二人が出場する『地区対抗リレー』は午後の部の最後の種目ということもあり、昼食を取ってから会場に出かける事になっている。このまま二度寝をしても余裕で間に合うのだが眠気が訪れそうになく、何度か寝返りを繰り返した後ベッドから抜け出した。
早朝の廊下は冷え冷えとしていて、何となく物寂しい。両手で身体を擦りながら、部屋で眠っているであろう花江を起こさないよう静かにキッチンに向かうと、お湯を沸かす。
熱を奪うように両手でカップを包み込み、熱い液体を口に含む。日曜の朝とあって、この地域一体が静かなのだろう、しんとした室内の雰囲気が心地よくてテレビのリモコンに伸ばしかけた手を戻し、カフェオレに意識を集中した。
手持ちぶさたにテーブルの片隅に置かれていたピンクの紙を引き寄せ『町民体育祭プログラム』と書かれたそれを捲る。徒競走、綱引き、幼稚園児の演技──等々、小学校や中学校と大して変わらない内容と、ビン倒しやタイトルだけでは意味不明の競技が並んだ一番最後に『地域対抗リレー』が明記してある。
走るのもそうだが人前に出る事すら久しぶりだ、そう自分で意識すると落ち着かなくなってしまった。
「やっぱり断れば良かった……」
頭を抱えながら、胸の奥に重石が詰まったように気分でため息をついた。
◇
「歩、少しは落ち着きなさい」
食事をそそくさと済ませ、何度も時計を確認しては立ったり座ったりを繰り返す歩に花江が呆れ声で呼び掛けて、ようやく自分の行動に気がついた。
「ごめん、なんだか緊張してて」
「そんなに緊張する必要ないじゃない。
落ち着かないなら、少し早いけど会場に行きましょうか」
「う~、………うん」
プレッシャーに押し潰されそうな歩が緊張を誤魔化すように勢い良く立ち上がると、ショルダーバッグを抱えて駐車場に向かった。