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第202話 一歩、前へ (14)

本日は二話更新しています。

第201話からお読みください。

「ウチは万年、人手不足なんだ。ここ数年、専門職は特に顕著でな。退職者を再雇用せざるを得ない有様だ。まあ、役場に限ったことではないがな」


 大きくため息をついた勇三が、胸ポケットを探る。二本目に火をつけた後、たばこを持つ手を向けた。


「ただし、俺が話をしたからといって、コネで入ろうなんて考えるなよ。採用も人事も話は別だからな」


「……どうして」


 からからの喉に貼りついた言葉を、ようやく出した。口をすぼめた勇三が、視線だけで問いかけてくる。


「どうして、私なんですか?」


 勇三が、眉間にしわを寄せ、煙をはいた。ため息のような長い息に、身をすくめる。  


「これだけ、俺に関わっておきながら、わざわざ聞くか? イベントの手伝いも、悟おじの仕事も、断る理由なんざ、いくらでもあるだろうが。おまえ、ここに帰りたいんだろう? だったら、帰ってくればいいじゃないか」


 自分の内心を見透かした正論に、耳を塞ぎたくなる。


「悩むくらいなら、動け」


 容赦ない叱責の締めくくりは、いつもその言葉だった。心の中で膨れあがった悔しさが、行き場をなくす。


「私、ここから逃げ出したんですよ! 帰ってこれるはずがないでしょう!」

「そう思ってるのは、おまえだけだ」


 全力の叫びを、勇三があっさりと切り捨てた。長くなったたばこの灰を落とす仕草に、荒れた心が落ち着きを取り戻す。また、やってしまったと、取り乱した自分が情けなくなる。

 勇三は、こういう時、決して謝罪の言葉を受けとらない。逃げ出したい衝動に駆られながら、必死で言葉を探す。ここで逃げ出しても、勇三はとがめないと分かっている。けれども、


「……そう思いますか?」

「多分な」


 紡いだ会話には、予想通り、適当な答えが返ってきた。勇三らしい分かりにくい優しさに、涙腺が緩む。意地っ張りな自分を、叩きのめして本音を引き出す。こんな荒技ができるのは、勇三以外いないだろう。


「勇三さん」

「おう」

「もし、難しいと答えたら、どうします?」


 春海の言葉に、勇三の細い目がぎろりと動く。差し出された手を素直に受け取れないのは、歩の存在があったからだ。もし、おおかみ町に戻るなら、歩とは離れてしまう。この先ずっと、一緒にいたいと思うからこそ、自分だけの問題にはできない。


「別に、なにもしないさ」


 勇三の返事には、少し間があった。射すくめるような雰囲気が、一気に霧散する。


「最初に、世間話だと言ったろう。俺は、話をしただけだ。断ったからといって、なにも変わらんさ。

 ちなみに、俺が、あちこちで声かけしてるのは、周知の事実だ。なにも、春海に限ったことではないから安心しろ」


 たばこを手放した勇三が、清々した様子でようやく腰を下ろした。 

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