第2話 叔母の友人 (2)
「ちょっと、歩!
そのプレート手作りなんだから、乱暴に扱わないでくれる?」
「ご、ごめん……」
店内に戻ると花江ににらまれて、一気に怒りがしぼんでいく。歩が春海に勝手に苦手意識を持っているだけで、自分でも非があることは自覚しているのだ。そんな歩の態度を呆れたように花江が見る。
「春海が一人になったら、先に休憩して良いっていつも言っているでしょう?」
「だって、片付けとかあるし……」
「歩が大抵片付けてくれているから、残り一人分の食器を洗うくらい私がするわよ」
「そ、そうだけど……」
「春海が苦手で関わりたくないなら、どうして最後まで待ってるのよ。春海だってそれが分かっているからこそ、わざと歩をからかうのよ」
「…………」
花江の言葉が正論過ぎて、何も言い返せない。
自分の意見や感情をはっきりと出すことを躊躇わない春海に対し、世情に疎く、人付き合いが苦手で、仕事以外では引きこもりがちな歩。
春海は歩にとって一番苦手とするタイプの人物だった。接客するだけなら気にならない事も、花江の友人となれば無視できない。初めて春海を紹介された時、花江がやんわりと忠告したのはそんな姪の性格を知っていたからこそだろう。
『歩ちゃんっていうんだ。
背、高いね~』
初対面でいきなり名前呼びされた上、コンプレックスである身長に話をふられて、思わず身を縮こまらせた歩を、まるで小動物を見るような表情で笑った春海。
あの出来事がきっかけなのか、わざとからかい出すようになった春海にますます苦手意識を募らせる事になったのだ。
だけど、何故だろう。
本当に苦手なら、花江の言うとおり奥の自宅に戻れば良いはずなのに、どうしても出来なかった。
絶対に解り合えないタイプだと分かっているのに、見えない何かに引きずられるように春海の傍に向かってしまう。花江と話す春海の声を聞きながら、店内の離れた場所で食器を洗ったり、テーブルを拭いて過ごして、時折、振られる話題にしぶしぶながら答え、春海にからかわれているのに、気がつけば同じ事を繰り返している。
自分でももて余すこの感情を薄々は気がついているものの、決して認めたくなくて、心の奥底にぎゅっと蓋をすると、花江の視線を避けるように苦笑いして自室に戻っていった。