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第139話 変化(28)

 助手席から見える景色をぼんやりと目で追いながら、つくづく自分の車で来なくて正解だったと思う。勇太がいなければ朝まであのままの状態で過ごしていたかもしれない。



 ──結局、また歩にプレゼント渡し損ねちゃった


 膝の上に置いたバックの重さを感じながら、小さくため息を吐く。


「何、そんなにショックだったの?」


 ため息を聞き咎める様な勇太の声に一瞬、意味が分からずに瞬きをする。


「ん? あぁ、違うわよ。

 歩にクリスマスプレゼント渡し損ねたなぁって」

「クリスマスなんてとっくに過ぎてるじゃん」

「ほんと。

 ……タイミング、悪いわよねぇ」


 苦く笑った春海の声がぽつりと車内に溶け込んだ。



「勇太」

「ん?」


「私……どうしよう」

「何もしなくて良いんじゃないですか」


 決死の覚悟で打ち明けた悩みを一瞬で解決した勇太をむっとして睨む。


「何よ、他人事だと思って」

「まあ、確かに他人事ですけど」


 前を向いたままの勇太が笑い、ミラーを確認してから右にハンドルを切った。


「歩が佐伯さんに打ち明けたのも状況が状況だし、それを偶々春海さんが聞いてたなんて知るはずもないじゃないですか。普段通りにしてれば良いんですよ」

「それは……そうだけど……」

「そもそも春海さんに彼氏がいるのをあいつだって知ってるでしょう。だからこそ今まで言わなかったんだろうし」

「あぁ~!! それなのよ!!」

「な、何だよ!?」


 突然叫び声をあげた春海に勇太がぎょっとする。幸い運転には響かなかったものの、車は明らかにスピードを落として進んでいく。


「……うぅ、どうしよう」


 挙動不審な春海を一瞥した勇太が運転に集中する様に黙った。


「勇太ぁ~

……あたし、凄くやらかしてる」

「何を今更。

 一応聞くけど、何?」

「……歩に彼氏紹介して、結婚の悩みも相談して、他にも色々と……」

「鬼ですか、アンタは」

「だって、だって……!

 あぁ~! お願い!!

 もういっそのことあたしを思いっきりぶん殴って!」

「嫌ですよ」

 

 自分の行動を振り返る度に悶える春海を「春海さん、危ないから暴れんなよ!」と勇太が叱り、事務所の駐車場に着いたところで疲れたように車を停めた。


「ほら、春海さん。

 着いたってば」

「うぅ、どうしよう……」

「ちゃんと帰れる?

 事故らないでよ?」

「……大丈夫。……多分」


 やれやれといった感じで息を吐いた勇太が、足取り重く車に向かう春海を呼び止めた。

 

「あのさ、春海さんがどれだけ悩もうと勝手だけど、歩の気持ちを踏みにじる事だけはしないで下さいよ」


 やけに真剣味を帯びたその表情に戸惑いながらも頷く。


「あ、うん。それは勿論だけど……

 ねぇ、勇太。

 どうしてそこまで歩に肩入れするの?」


 幾ら初めから歩の事を知っていたからといって、勇太の言動は思い起こせば常に歩を庇う様な事が多く、ずっと気になっていた疑問をぶつけると勇太の表情がわずかに歪む。


「俺もあったんですよ。……似たような経験」

「……どういう事?」


「春海さんには俺が男子校出身って話しましたよね?

俺、高校時代ずっと仲良かった友人がいたんです。俺は親友だと思っていたけどそいつは違ってて。

 卒業式の後に呼び出されて告白されたんですよ」

「それで……勇太はどうしたの?」

 

「俺、あの頃は同性から好意を向けられるとか信じられなくて、動揺して『何言ってんだ、冗談だろ?』って笑って流したんです。

そしたら、そいつも笑って無かった事にしてくれたけど……後から死ぬほど後悔しました。

あの時、俺はどうしてあいつときちんと向き合わなかったんだろうって」


 吐き捨てるように話す勇太の表情は俯いているせいで見えないものの、後悔はありありと伝わってくる。


「…………ねぇ、その人は?」

「それっきりですよ。

 元々進路も違ったし、あいつもそのつもりで告白したかもしれないですけど。

 それでも、会わないままです」


 ようやく顔を上げた勇太が春海を見る。


「だから春海さんは俺みたいに後悔しないで下さいよ」

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