表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/235

第122話 変化(11)

「……」

 

 事情を聞いた花江が暫し押し黙る。その沈黙は数十秒ほどだったのにも関わらず、春海にとっては酷く長い時間に感じられた。


「……花江さん?」

「あ、ごめんなさい……」


 困ったように眉尻を下げていた花江が何かに気づいたように小さく笑みを浮かべる。


「あの子、きっと少し混乱しているだけよ。

 だから春海はそんな顔しなくても大丈夫」

「そ、うかしら?」

「ええ」


 自分が余程酷い顔をしていたらしいと気づき、何とか平静を繕うも全く落ち着かない。


「歩が落ち着いたら話をしてみるから。

 ごめんなさいね、この大切な時期に余計な心配まで掛けて」

「ううん。

 私にとっては全然余計な事じゃないから」


 社交辞令と分かっていても歩の事を『余計』と言って欲しくなくてあえて否定すれば、花江が微笑んだ。


「ね、花江さん。

 歩の事、何か分かったら連絡くれる?」

「え? でも……」


 先程のやり取りを聞いたばかりの花江が不安そうに言葉を濁す。それが歩に拒絶された自分を気遣っての事だと分かったが、春海の決心は変わらなかった。


「大丈夫。

 私は歩を信じてるから」


 ◇


「歩、入るわよ」


 コンコンと小さく鳴ったドアの向こう側から花江の声が聞こえ、少しの間があった後でゆっくりドアが開く。パチリと音がして部屋に明かりが点るものの、丸まったままの身体は床に縫い付けられた様に動こうとしない。


「風邪引くわよ。

 ベッドに行けそう?」

「……」


 僅かに動いた頭を撫でると、拒絶するように身体が身動ぎした。構わず隣に座ると衣服の上からでも分かる冷えた身体を労るようにそっと抱き抱える。


「春海、怒ってなかったわよ」


 隣に座る花江の声に再び小さく震えだした背中をぽんぽんと撫でながら、言葉を続ける。


「歩の悩みは私にも話せないの?」

「……」

「そう、それなら聞かないから。

 これ以上自分を責めるのは止めなさい。春海に余計な心配は掛けたくないでしょう?」


 いつしかしゃくり上げる身体を膝の上に引き寄せると、ぐっしょりと濡れている袖に気がつく。込み上げてくる幾つもの言葉を飲み込むと、ただ黙って腕に力を込めた。


 ◇


「歩さん!」


 しばらくぶりに会った佐伯が車から嬉しそうに手を振ってくる。


「……この間はすいませんでした」

「体調不良だったなら仕方ないよ。

 それで、もう大丈夫?」

「はい……」


「それなら良かった」と笑った佐伯に助手席を勧められる。先日のキスを思い出して震えそうになる足を何とか動かしてシートに座ると、佐伯の手が顔に向かって伸びてきた。


「っ!」

「あ! ごめん、そういう意味じゃなくて。

 あの……大丈夫かなって思ったんだ」

「あ、ごめんなさい……」

「いや……」


 咄嗟に後退りした歩を見て、佐伯が伸ばしかけた手を慌てたように引っ込める。距離を取ったまま動こうとしない歩に曖昧に笑いかけるとぎこちない雰囲気を変えるように車を走らせた。

いつもお読み頂きありがとうございます。


次話から更新ペースが四日おきになります。

ちょっと執筆ペースが追い付かなくて……すいません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ