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第114話 変化(3)

  行き先を決めないまま走り出したはずなのに、いつの間にか『HANA』へ向かう交差点に差し掛かっている事に気づき、一人苦笑いする。


「そういえば、歩に話を聞かなくちゃ」


 赤色に変わった信号機を見ながら、あれほど乗り気でなかった歩がどうして急に心変わりをしたのか理由を考える。


 ──そもそも、歩と最後に話したのはいつだっけ?


 慌ただしい毎日の記憶の中から歩と交わした会話にたどり着いた途端、思わず呻き声が上がる。


「………あの時かぁ~」


 圭人のプロポーズを受けた直後のあの時は、とにかく歩に聞いてほしい気持ちばかりが先走って自分に全く余裕がなかった。よくよく振り返ってみれば歩の様子もどこかおかしかったように思えたし、きっと歩も相談するタイミングをうかがっていたに違いなくて結局言い出せず仕舞いだったのだろう。


「最悪……」


 自分の方が遥かに大人なのに、ついつい甘えてしまってばかりの子供っぽい性格に気が滅入る。毎回気をつけようと自覚はしているものの、気を張らなくても良い相手と一緒に過ごす時間はあまりにも心地良すぎるのがいけないと思う。



 ファン、と後ろからクラクションを鳴らされ、はっと顔を上げると信号が青に変わっている。慌てて車を発進させ程なくして見えてきた路肩に一旦車を寄せると、乱れた気持ちを落ち着かせた。

 停まったついでにメッセージアプリを開き、歩のアドレスを見つけると時計を確認する。今日『HANA』は定休日で仕事はないし、メッセージを入力するより話した方が早いと通話を選ぶ。


『はい、もしもし』

「歩? 春海だけど。

 今、電話大丈夫?」

『あ、えっと、その……』


 電話口から聞こえる酷くぎこちない口調を不審に思うも、すぐに心当たりがつく。


「もしかして、誰かと一緒だったりする?」


『……はい』

「ごめん、また今度連絡するわね」

『すいません……』


 申し訳なさそうに切れた通話に思わず手元のスマホを見つめる。言葉を濁したものの側に人がいるのを否定しなかったということはおそらく佐伯と一緒だったのだろう。春海と話した後、急ぎ足で帰った佐伯の後ろ姿を思い出してがっかりするとスマホをシートに放り投げた。


「なんかタイミング悪いなぁ~」


 いつでも会えると思っていたからこそ気軽にメッセージや電話が出来たのに、こんな風に断られてしまうと言葉で言い表せない寂しさを感じる。


 女同士の友情は彼氏が出来た途端あっさり優先順位が下がりがちになることも多い。歩がそんなタイプには思えないものの、佐伯の浮かれ具合を見ればこれから歩と連絡をとるのも気を使わなくてはならないかもしれない。そんな未来を想像して、軽く憂鬱になった。

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