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灰色の私が幸せになるまで  作者: 菜央実


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112/236

第112話 変化(1)

ご無沙汰しています。

しばらくは更新出来そうです。

 12月最初の週末、春海たちは朝から町の図書館で行われる『ブックカフェ』の準備に勤しんでいた。今回の企画は日頃利用者の少ない図書館を広く知ってもらうため、図書館のホールに一日限定のカフェを併設し、ドリンクやスイーツを楽しみながら読書も楽しんでもらおうというもので、子供向けの本の読み聞かせや、廃棄される予定だった本や雑誌の無料譲渡も行うらしい。


 図書司書と隣に並ぶ恵の説明をぼんやりと眺めていると肩を叩かれる。


「春海さん、何ぼうっとしてるんすか。

 説明終わりましたよ」

「……あれ?」


 慌てて周りを見れば、皆がそれぞれの持ち場に移動している。勇太を追ってカフェスペースに行くと、店員用の黒いエプロンを身につけながら気遣わしげに視線を向けてくる。


「疲れてるんじゃないですか?

 人数足りてるんだから、休んでも良かったんですよ」

「ううん、体調はバッチリだから」

「んじゃ、心配事の方ですか」


 何気にずばりと指摘されて、言葉に詰まる。凍った笑顔の裏で冷や汗をかいていると、目を細めて見ていた勇太が先に視線を逸らした。


「別に聞こうとは思ってないですよ」

「……ありがと」


 深入りしてこない勇太の気遣いに感謝を告げたとき、10時を知らせるチャイムが鳴り響いた。入り口に視線を向ければ、ちらほらと参加者が歩いてくるのが見える。


「頑張ろうか!勇太」

「へーい」


 気の抜けた返事に思わず笑いながらも、物珍しそうにやってくる小学生の集団に早速「おはよう」と声をかけていった。



『ブックカフェ』は予想以上に好評だった。元々今日の天気が雨予報だったことで室内イベントのタイミングが良かったことやスイーツを提供してくれた洋菓子店のケーキが好評だったことも要因らしい。読み聞かせをする図書司書の女性が「こんなに利用者が来たのは初めて」と嬉しい悲鳴を上げているのを見れば、休日返上での仕事も頑張った甲斐があるというものだ。


 無料譲渡のコーナーは午前中で終了し、カフェスペースは夕方までには殆どのスイーツが売り切れたことで予定の時間より早く解散となった。


「お疲れ様でした」


 誰もが笑顔で締めくくった解散の挨拶の後、一斉にばらばらとなった人だかりの中で真っ直ぐこちらに向かってくる佐伯に気がつく。


「鳥居さん、お疲れ様でした。

 この次はいよいよ収穫イベントですね」

「本当よね~。

 今から何だか落ち着かなくって……とりあえず天気だけが心配。これから毎日てるてる坊主作ろうかって本気で思ってるのよ」

「週間予報じゃ明後日から晴れが続くみたいでしたから大丈夫ですよ」

「予報が変わらなければ良いんだけど……」


 入り口から見える薄暗い空に目を向けた春海に肩を並べるように立った佐伯が「鳥居さん」と小声で呼び掛けた。


「何?」

「あの、その、報告というか、おかげさまで歩さんとお付き合いすることになりまして……」

「は!?」


 春海の声にびくりとした佐伯が「鳥居さん!! 声!」と慌ててたしなめる。


「え!? ちょっとこっちに来て!」


 佐伯を引きずるようにロビーの端に連れていくと、周りに人がいないことを確認して向かい合う。


「何? どういう事?」


 寝耳に水といった春海の驚きように目を白黒させながら佐伯がそれでも事情を説明する。


「どういう事って、言った通りですよ。何度か二人で遊びに行って、この間『付き合って下さい』って言ったらOKしてくれたんです」

「え? 本当に歩が付き合うって言ったの?」

「言いましたって!」


 春海の信じられないといった口調が気に障ったらしく、むっとしたような表情を浮かべた佐伯に慌てて謝る。


「ごめんごめん! 私、歩から何も聞いてなかったから……」

「なんだ、そうなんですね。

 僕も鳥居さんが忙しいって話してたんで、歩さんも気を使ったんじゃないですか」

「!

 あぁ、そうなんだ……」


 歩から何の相談も報告も無かった事の原因となっていた目の前の人物を恨めしく思うも、さすがに口には出せず曖昧に笑う。


 言いたいことは沢山あるものの、驚きすぎたためか言葉が思い浮かばない。「色々アドバイスして下さったお陰です。ありがとうございました」と目の前で幸せオーラを出している佐伯と同じように付き合う事を決めた歩も笑っているのだろうか。


「この後用事があるんで」と足早に去っていく佐伯の後ろ姿を、どこかもやもやした心を抱えながら見送った。

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