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第1話 叔母の友人 (1)

 接客業というのは大変な職業だとつくづく思う。


 いや、世の中の職業の大半はきっと大変に違いないだろうし、身内の店で初心者程度の接客業しか知らない自分が言うのもおこがましいと一応分かってはいる。


 だからこそ、自分と決して相容れない様な客に対しても、嫌悪感を見せないようにして振る舞わなければならない、そう自分に言い聞かせる。


 それが、叔母の昔からの知人だったならば、尚更。


 ◇


 暦の上では秋の気配に染まる九月中旬の午後1時50分。カウンターとテーブル席を合わせて十五人も入れば満席の『隠れ家レストラン HANA』で、あと10分でランチの営業は終了するという時間になっても、未だ席を立つ気配のない最後の客に、カウンター奥のシンクを磨きながら、歩はもう何度目かのため息が出そうになるのを飲み込んだ。


「それでさぁ~」


 茶色の長い髪を雑にかき上げながら、間延びした声でカウンター越しに向かい合う店主の花江に話す女性に気付かれぬよう横目で見る。


 今日のランチが置いてあった皿は随分前から綺麗になっていて、サービスで淹れたコーヒーカップを時折口に運ぶだけだ。空いた皿は早く水に浸けた方が汚れは落ちやすいし、片付けも終わる。

 たった一言、「失礼します」と言うだけで、きっと彼女は気にも止めないだろう。


 だけど、その一歩が踏み出せない──




 つい一ヶ月ほど前、客として訪れたこの女性の名前は鳥居春海、年齢は二十八才。歩の住むこの町で今年から始まった地域起こしプロジェクトのメンバーとして四月に引っ越して来た。遠距離ながら付き合っている男性がいて、ここに来る以前は二時間ほど離れた都市部で会社勤めをしていたらしい。


 接客するだけの関係とはいえ、どうしてこれほど知っているのかといえば、春海が『HANA』の店長で歩の叔母でもある花江の友人だからだ。


 二人は学生時代のバイト先が同じだったという何とも細い縁からの再会だったらしいが、穏やかな花江と明るい春海は元々気が合っていたらしく、一番客の少ない毎週水曜日のランチの終わる間際、春海がこうして花江と話をするために食事に訪れる。


 故に、水曜日のこの時間は歩にとって、知りたくもない春海の情報を聞かされる憂鬱な時間なのだ。


「それじゃあね、花江さん」

「ええ、またね」


「ありがとうございました」


 年下の春海がバイト先の先輩だった関係で、呼び方以外は対等な関係らしい春海がようやく立ち上がった事に、聞かれないよう小さく安堵のため息をついて送り出す歩を、ちらりと春海が見る。


「ごめんね~、長々と話しちゃって」

「いえ」

「また来るからね、あ、ゆ、むちゃん」

「──」

「ははは」


 誠意を感じない謝罪と、自分の嫌悪感をわざと煽るような口調にムッとしたのを咄嗟に誤魔化すも、春海にはバレバレだったようで、店員としては失礼な態度にむしろ満足したように出ていく。


 暑い日差しを避ける日傘を片手に歩く春海の姿が駐車場から消えたところで、我慢していた鬱憤を晴らすようにドアのプレートを乱暴に『CLOSE』と変えた。

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