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4話 「大魔女」


 「俺、行ってくるから」

 「『バウッ、バウッ!!』」


 今、俺の隣に座っている狼は俺が昔拾った二匹の狼の子供の子供の子供の子供の…………何代目だったか。


 まぁ簡単に言うと、コイツは偶然俺が拾った何故かめっちゃデカく成長した狼だ。


 「それにしてもここも変わったなぁ……」


 俺は大狼と並んで、鬱蒼と茂った森を見渡す。


 いつの間にか出来ていた森だが、気がつくと50メートル以上伸び様々な動物達が住み着いていた。

 最初の頃は不毛の大地だったような覚えがあるが、いつからこうなったのかはハッキリと覚えていない。


 「本当に、長い年月が経ったんだな……よし、最後に一回やるか」


 俺は手の平を上に向け、駆け出した。

 今まで何回もやってきた動作。


 「『火球』」


 俺がそう呟くと同時に、キュインッと音を出し黒い粒が手の平から天空に打ち上がる。


 「結局火球しか使えなかったけど……強くはなった気がする」


 俺は手を、強く握った。


 その瞬間。

 ドンッ、っといった爆発音と共に暴風が辺りを貫く。

 そして、木々が吹き飛ぶと同時に頭上に黒い炎が降り注いだ。


 『火球』

 俺が極めたただ一つの技。

 炎に触れた物を全て灼き尽くす技である。


 もちろん、この森に燃え移る前に魔力供給を止めておく。

 とんでもないことになりそうだからな。


 「じゃ、元気にしてろよ!!」

 「『……クゥゥン』」


 俺が手を振ると、大狼はそんな声を出した。

 少し連れて行こうとも考えたが、彼には既に妻と子供がいる。この森から出す訳にはいかない。


 俺は前へ向き直り、走り出す。


 遥か昔だから記憶が曖昧だが、俺は川で運ばれてきた気がするのだ。

 だから、上流に行けば多分村がある。


 ……多分。


 「いやーー、みんな元気にしてるかな?」


 どれぐらい森に居たかは記憶に無いが、それなりに長かったような気がする。

 数年程度といったところだろうか。


 俺は手に黒い炎を浮かべる。


 また、笑われるのだろうな……





 俺は体感数日走った。

 疲れず、眠らず、腹も減らないからずっと全速力で走れるし移動も楽だ。


 「……」


 だだ、一つ違和感があった。

 一向に村がある気配が無いのだ。

 ずっと、ずっと見ているのは森だけ。村の気配があるどころか、人すらいない。


 「俺がいない間に……何が起こったんだ?」


 俺は立ち止まり、近くにある高い木の上に登り周りを見渡す。


 ……あるのはやはり森。

 地平線の先までずっと森が続いて――


 「!!」


 川のさらに上流。

 雲を突き抜ける程大きな山の頂上に、かなり大きく、真っ白な城がある。

 まるで何かから守るようにして高い塀で囲まれており、要塞の様だ。


 「あんな城、あったっけ?」


 取り敢えず行くしか無いだろう。

 久しぶりに人に会いたい。





 「止まれッ!!」


 城の大きな入り口の門には二人の傭兵が立っていた。

 全身を鉄の鎧で覆っており、顔すらも見えない。


 「お前は誰だ!! 何をしに来た!!」


 その内の一人が腰の剣を抜きそう言い放った。

 この反応……まるで俺が敵であるかのようだ。

 うーむ、何と言おうか。


 「た、旅の者です。歩き回っていたらこの城が目に入ったので来ました」

 「歩き回って……ハッ、『大魔女ドロシー』の差し金か?」


 ……何だ?

 ドロシー……何か引っかかる。

 俺に凄く関係のある名前のような――


 『もう、近寄らないで』


 「う…………っ!!」

 「な、何だ!?」


 二人の傭兵は剣を構えこちらに向ける。


 マズいな。

 久しぶりに人と会えたというのに、敵意剥き出しだわ誰かの声と変な頭痛はするわ……もうちょっと時間が経ってからの方が良かったかな。


 「やるか?」

 「……ああ」


 傭兵はそんなことを話しながら、じりじりと近づいてくる。

 どうやら俺のことを殺すつもりらしい。

 誤解を解かなければ。


 「す、すみません。大魔女ドロシーって誰ですか?」

 「知らないフリをするな!! こんな森の中一人で旅をするバカなど居ない!!」


 俺がそのバカなんだけどなぁ……

 戦ったら戦ったらで大魔女とやらの差し金だとますます思われるし、逃げるしか手段がなくなってしまったじゃないか。


 全く……『大魔女ドロシー』とか言ったか、いい迷惑――


「……!!」


 気づけば。

 俺と二人の傭兵の間に割ってはいるように、一人の人間が杖を持ち立っていた。


 それと同時に、二人の傭兵が気を失ったかの様に倒れる。


 背の高い人間だ。

 真っ黒な服に、真っ黒なマントを羽織りはためかせている。

 そこから時おり見えるのは真っ白な脚。

 後ろ姿で、顔はわからない。

 頭に被ったとんがり帽子からは長く、黒い髪が伸びている。

 二文字で言うなれば……漆黒、だ。


 「ありがと。隙、作ってくれて。地味にコイツら強いからさ」


 その人間はこちらに振り返る。


 俺はその顔を見た瞬間――気を失った。


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