葉子ちゃんは、寄り添いたい
色とりどりの花たちに囲まれて、だらしなく表情を弛ませている彼。
知ってるのかな。あなたを取り囲んでいる一見華やかな彼女たち、実は毒花だらけなんだ。
今まで振り向きもしなかった、それどころか蔑んだ目であなたを嘲笑していた彼女たち。
あなたが成功した途端、名声を得た途端、お金を持った途端、目の色を変えて、彼女たちは擦り寄ってきた。あなたの周りに群生し始めた。
あなたの側にはいつでも私がいたのに。幼馴染の私がいたのに。
可憐ではないけれど、華美ではないけれど、そっとあなたに寄り添って咲き続けてきた小さな花。
綺麗ではないけれど、派手ではないけれど、ずっとあなたに寄り添って支え続けてきた一輪の花。
地味で目立たなくて冴えない色の私。
そんな私のことを見つけてくれたのは、愛でてくれていたのはあなただけだったのに。
でも、もういいんだ。
私のもとを去った彼には、今はもうそんなに執着はなかった。
だって私を見つけてくれた、優しく包んでくれた、そんな素敵なひとが現れたんだもの。
だから、サヨナラ。私は光差す別の場所で、新しい彼の為にひっそりと咲き続けていきます。
私は彼に背を向けて、新しい道を歩み始める。
私の通り過ぎた道の両端で、花が咲き誇っていた。
俺は遠目に彼女の背中を見つけた。自分の顔が無意識に歪んだのがわかった。
幼少の頃から、俺にずっとつきまとっていたあの偏執狂。俺に干渉し続け、俺を束縛し続け、俺を彼女という檻の中に閉じ込め続けた、あの異常者。
彼女など勿論出来なかった。俺に好きな娘ができたと分かった時、あいつはその子に嫌がらせをし続け、不登校になるまで追い詰めた。
友人など勿論出来なかった。俺に近づく人間を徹底して排除し、根も葉もない俺の悪評を周囲に垂れ流し続け、俺を孤立させた。
部活だって辞めさせられた。趣味だって止めさせられた。高校、大学共、彼女の低レベルな学力に合わせて進学先を選ばされた。
でも、それがいかに異常だったのか俺は理解していなかった。幼少時から刷り込まれたその世界が普通のものであると錯覚させられていた。
でも、もうその洗脳は解けた。
彼女が新しい宿主を見つけたから。
俺の根本に寄生根を伸ばし養分を根こそぎ奪い取っていった、俺に差す光を悉く覆い隠していた、あの寄生植物。
彼女に喰い込まれ、葉が萎れ、茎が細り、根が腐り始めていた俺は、花など咲かすことは出来なかった。
でもようやく解放された。腐り落ちる寸で、俺は光を浴びることを許された。
今では、こうして恋人や友人たちに囲まれ、楽しく生きていくことが出来る。小さいながらも花を咲かせることが出来ている。
ただ、一つだけ不安があった。
彼女の新しい寄生先。
小さく大人しく、清楚を装うあの食虫花。あの花に手を触れてしまったら、あの甘い蜜に取り込まれてしまったら、もう終わりなんだ。
いずれその彼は破滅する。ドロドロに溶かされて、最後には消えてなくなり、すべてが彼女の養分となってしまうに違いない。
彼女は俺に背を向けて、新しい道を歩み始める。
彼女の通り過ぎた道の両端で、花が腐り落ちていた。