1話 古の竜
「……凄く疲れたわ。なんで、学園なんて行かなきゃいけないのかしら。」私、ルナリア・アムネリアは、小さく呟いた。
私が通っているこの学園、王立セルシア学園。
名前通り、1000年近くの歴史を持つ王国、セルシア王国が設立・運営している学園で、世にも珍しい義務教育の学園だ。
学園での授業料や教科書代、寮の費用など、すべてを負担してくれる。
そのため、国内外から学園に入学しようと、試験に挑んでくる。
ただ、試験の問題は難しく、落ちる者も多いのが現状だ。
そういう私は、自力で試験に合格し、入学した1人なのだけど。
そして、もう1人自力で試験に合格し、入学した知人がいる。
幼馴染であり、かつてこの世界を支配した古の竜、オルフェウスの鱗を継承した青年とも呼べる男の子、ギルファ・オルザードだ。
ギルファは、長く美しい銀糸の髪を持つ紅い瞳の整った顔立ちをしている。
ギルファは、齢10歳で、剣術の最高峰に達し、オルフェウスの鱗を継承した。
オルフェウスの鱗を継承した者は、いずれ古の竜オルフェウスにあやかった強い力を手に入れることで有名だった。
現に、オルフェウスの鱗を継承して、6年。私と同じ16歳であるギルファは、6年前に比べて強大な力を手に入れたといっていい。
だが、その影響で彼の周りには、人があまりいない。
学園の女子達は、あまりの格好良さに黄色い歓声をよくあげるけど。
畏れ多くて、近づけないらしい。
らしい、というのは私が彼に近づく例だといっていいからだ。
他にもギルファをライバル視している男の子もいる。
そして私は、オルフェウスの伝承を伝える一族に生まれた。
かつて、オルフェウスは古の時代の1番争いの多い時期に生まれたという伝承があり、生きていくためには、力を手に入れ、襲いかかって来る者達を殺さなければならない時代だったという。
オルフェウスはやがて狂い始め、殺しを楽しむようになっていったらしい。
そして、オルフェウスは古の時代の者達に打たれて死んでいってたというのだ。
ただ、オルフェウスを殺すために世界が団結し、オルフェウスを打つと、世界が平和になったらしい。
その件に関して、世界の研究者達は、オルフェウスに、平和にする意図があった派と平和にする意図がなかった派に分かれている。
ちなみに、ギルファは意図があったと確信したように言っている。
世界は断然、意図していなかったと考える者の方が多い。
最近の学園の授業は、古の竜オルフェウスの授業ばかりだ。
そんなに、授業でしなくても、この世界に住んでる者は、オルフェウスの伝承と共に育つので、知らないことの方が少ないと思ったりする。
そう思う私も今年で最終学年の3年生。
しばらくして、卒業だ。
この学園ともおさらばする。
私は、卒業後、オルフェウスの伝承の真実を求めて世界各地を旅しようと思っている。
ギルファには、言っていない。
旅に出る直前に言おうと思ってる。
最初は、国内のオルフェウスの伝承の遺跡から調べ、隣国から徐々に調べていく予定だ。
私の夢は、オルフェウスの謎をすべて明らかにすること。
そのためならば命を懸けてもいい。
ふぅ、と息を吐く。
そして、授業の終わりを告げる鐘の音がした。
この授業が終わると、昼食の時間になるため、わらわらと人が席を立って、売店もしくは食堂に向かう人が教室を出て行く。
私は、家も近く、家から通っている為、お弁当を持って来ている。
もちろん、ギルファもだ。
教室から、ぼうっと外を眺める。
外には、友達とおしゃべりしながら、楽しそうに昼食を食べる学園の生徒たちがいた。
「……食べないのか?」ギルファは、人が居なくなった教室で外を眺めていた私に、近づいて来て、首を傾げながら聞いた。
「……食べるわよ。ただ、ちょっと考えごとしていたの。」私は、そうギルファに答えてお弁当を取り出した。
「一緒に食べるの?」私は、ギルファに聞くと、ギルファは何も言わずに近くの椅子を私の机に持って来て腰掛けた。
「ああ、1人だし。お前と一緒に食いたいわけじゃねぇからな。」
「はいはい。」
私は、ギルファの言葉に照れ隠しを感じて笑みを浮かべた。
「ルナ。」ギルファは私の愛称を呼ぶ。
「……ん、どうしたの?」私は、口の中に入っていた食べ物を咀嚼して嚥下すると、ギルファに何事かを聞く。
「お前は、オルフェウスの伝承のこと、どう思う?」ギルファはそう私に、聞いてくる。
「どうって言われてもねぇ。……謎の、塊かな。」私の答えに、ギルファは目をパチクリさせる。
「だって、そうでしょう?オルフェウスの伝承は、他にないくらい有名な伝承だけど、世界を恐怖に陥れ、世界の住人に打たれたという真実しかの残っていないわ。いつどこで生まれて、誰と過ごして、なぜ破壊を、殺しを楽しむようになって、なぜ世界を恐怖に陥れたのか、何にもわかってないわ。本当に竜だったのか、それさえもわからないんだもの。」私は、そうギルファに言った。
私の考えを聞いたギルファは、今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。