数多の魔王たち
みなさんの趣味は何ですか?
散歩から戻った俺は、ひとつの結論を導き出していた。
「我々は芸術家でなければならない」
虫たちでさえ、異性にアピールするために音色を奏でるのだ。
人間も何か、アピールできるものが無ければならないだろう。
例えば、就職活動では過去の経歴というか、趣味とか特技とか、そういったことを言わねばならないのだが、それと同じようなものだ。
結婚を考える男が、相手の両親に自己紹介をするときにも必要になるだろう。
趣味の無い人間は弱い。
しかし、自分にあった趣味というものは、そう見つかるものだろうか。
「なあ、リアラ。何かオススメの趣味ってある?」
「ご主人様、私はかの猫型ロボットではないのですよ」
「いや、かの青いタヌキのようなテクノロジーは想定してなかったよ」
「そうですか・・・しかし、最近はネットや端末が普及してますからね。何かそういう関係でできるかもですね」
「そういえば、小学生のなりたい職業ランキングのトップにあるのが、動画配信者って職業だったな」
「自分のチャンネルを持てるって、いい時代になりましたね」
「まあ、しょーもない動画が大半を占めてる気がするんだけどな」
かつてはテレビがメディアの中心であったが、最近ではあらゆる個人が、自作の動画を発表するようになってきている。
「あの、ご主人様。ひとつわかったことがあるのです」
「なんだい、リリア」
「リアラです、ご主人様!その、前に話にありました魔王というものなのですが、それはどうやら動画配信者のことではないかと思うのです」
「なるほど、魔界の創造主だからな。となると、そもそもフィクションの作者は魔王ということになるな」
「そうでございます。さらに申しますと、フィクションのみならず、あらゆるメディアの発信者は魔王と言ってもよいかと思うのです」
魔王魔王と言っていると、また暗い話になりそうなので、話を戻した。
「・・・まあ、それは置いておいて。俺の趣味についてなんだが」
「はい、イラストを描いてみてはいかがでしょうか。あるいは、音楽なども」
「そうだな、最近『これさえあれば、何もいらない』っていうタブレットPC買ったから、多分できると思う。まあ時間はかかるだろうけど」
「それでは、ご主人様。私が趣味の成功を祈って、魔法を授けたいと思います」
リアラは杖を取り出すと、天を指した後、部屋の中央に向けた。
「ミディアム、メディアム、アルファーレ!光と影よ、我らの夢を結び給え!」
リアラの杖の先から、桃色の光が、たなびくリボンのように放たれた。
それはやがて、タブレットPCを包み込むと、うっすらと消えていくのであった。
タブレットPCに、何かが込められたようだった。
「絵を描かねばならない」
こうして、俺の趣味(あるいは特技)は一応「絵」ということになったのだった(予定)。
僕は絵を描きたいと思います。