ヒマジン・ライト
前書きは考えていなかった。
水晶玉に命じた通り、散らかっていた机の上はきれいになった。
といっても、荷物が吹き飛ばされてしまっただけなのだが。
「なるほど、『なんでもできる』ね」
この力を使えば、なんでもできてしまうのだろう。
しかし、必ずしも良い結果になるとは限らないのかもしれない。
第一、今の暮らしに不満があるわけではない。
そして、特に何か欲しいといったことも、ないのである。
水晶玉の便利能力があったところで、特に使い道も見いだせない。
無尽蔵に何かを出すことができるとか、そういうチートな性能があればいいのかもしれないが、あいにくこの水晶玉は俺の魔力か何かを消費しているようだ。
そんなリスキーなもの、怖くて使えない。
つまり、俺はいつも通り暇なのだ。
暇人、暇人。
「暇な魔人、火魔人」
何気なく俺が呟いたその時、突如として燃え盛る炎が目の前に現れた。
「我が名は火魔人」
炎をよく見ると、部屋の私物が燃えている様子は無いようだ。
おそらく、これは夢か幻覚のようなものなのだろう。
「ヒマジン?なんだ、ダジャレか。寒いな」
「主よ、ならば暖かくなるように我が魔法を捧げよう」
「いや、今のは言葉のアヤというやつで・・・」
俺が言い訳をする間もなく、ヒマジンは両手を前方へ突き出して、呟いた。
言ってなかったが、ヒマジンは人間のような形をした炎なのだ。
「主を暖めよ、光よ照らせ、ヒマジン・ライト」
ヒマジンが呪文のようなものを唱えると、目の前に鮮やかな色彩が広がった。
「すげぇ、なんだか心が楽になったようだ。春の陽気というか、のびのびとしているというか」
「お役に立てて光栄です、マスター」
幻覚だとは思うが、気分は悪くない。
「ヒマジン・ライト」というダサいネーミングも結構ツボに入ってしまった。
スクワット10回、腕立て伏せ10回、腹筋・背筋10回ずつ。
少しストレッチ。
「ヒマジン・ライト」のおかげか、ご無沙汰だった筋トレを(ほんの少しだけだが)やることができた。
そして、なんとなくだが、進むべき道が見えてきた気がしたのだ。
ついに魔法が登場しました。