陰陽五行説と魔物
えっと、頑張って書きました。
「なんだ、お前は」
「おやおや、おいらには『ジャック』って名前があるんですぜ」
「そうか、ジャック。それで、さっきのはどういうことだ」
一ツ目の小鬼、ジャックは語る。
「あんたは『よそ者』だから知らないでしょうが、この世界はおいらたち『魔物』が支配しているんですぜ」
「魔物か・・・ファンタジーだな。魔法もあるのか」
「あんたが思うような魔法じゃないかもしれないが、そうだな」
魔物が支配しているという点を除けば、よくある異世界モノの話に近いのかもしれない。
「この世界では、人間はおれたち魔物の『養分』に過ぎないんだぜ。
さっきのお嬢ちゃんも、彼女に住んでいる魔物の養分なのさ。
さっきのは、ちょうど食事中だったってわけ」
「なんだって!?それなら俺が声をかけなければ、彼女は今頃・・・」
「勘違いしなさんな。別に魔物が食ったから、死ぬってことはそうないものさ」
そう言うと、ジャックは道の脇に座っている男性を指さした。
そこにも人がいるとは、ちょうど木造民家の影になっていて、気づけていなかった。
「その男も、今まさに魔物に食われている最中なのさ。
だがな、食後にこの人間が死ぬなんてことは滅多にない。
しばらくすれば、この人間もまた動きだすだろうよ」
「そうなのか・・・なら、その魔物ってのは、何を食っているんだ?」
「そりゃあ、『魂』に決まっているだろう」
俺はしばらく、その男の様子を観察していた。
彼は目を閉じており、たまに首を縦にふるような動作をしていた。
5分ほど経った頃、彼は目を開け、立ち上がると、どこかに歩いていった。
「あの、大丈夫ですか」
俺が声をかけると、彼は機嫌が悪そうな顔をして、何も言わずに去っていった。
その際、彼の耳に、糸状の黒い影がくっついているのが見えた。
まあ、普通に歩けているし、命に別状はないのだろう。
「やはり、少女の時と同じだ。魔物により魂を食われるというのは辛いものなのだろう」
「いいや、そりゃあ、あんたの勘違いさ。全部あんたに対する嫌悪だぜ」
「何!?」
「いいか、魔物が人間を食うってのは、痛いとか苦しいような、そういうものじゃないんだ。
むしろ気分がいいとか、スッキリするとか、そういう快楽が多い」
ジャックが言うには、魔物というものは、人間の欲望や感情に付け入るものだという。
人間の感情のエネルギーが、魔物の食糧なのである。
不安、不満、怒り、悲しみ、喜び、苦しみ、焦り、興味、劣等感、後悔に罪悪感。
あらゆる感情が、やつらのご馳走なのだ。
「待て、つまり、感情を食われるわけだ。なぜ、それが快楽なんだ?」
「およそ、不満だとか不安だとか、そういうものを食ってもらっているんだろ。そしたら、スッキリするわけだ」
「そうか・・・人間にとってマイナスばかりじゃないってことなんだな」
思っていたより危機的な状況でないことがわかったので、俺は異世界を楽しむことにした。
「ところで、俺は魔法ってものが無い世界から来たんだけど、この世界では使えるのか?」
「ああ、使えるとも。それで、何がしたい?」
「そうだな、例えば炎を自在に操って、敵のモンスターを倒したり、とか」
「・・・。まず、『敵』というものがいるかということを抜きにして、お前さん『木』の属性だろう?
残念ながら、炎を操るには向いていないね」
「『木』の属性?あの、陰陽五行説をゲームの属性に当てはめた際に、よくネタにされる『木』?」
そういえば、演劇でも「木の役」みたいに、「木」はネタにされる。関係ないか。
「まあ『木』だとして、どんな能力が使えるんだ?」
「『生命の木』って概念は知ってるよな?『木』ってのは生命力を意味する。生態系や自然の調和、そういったエネルギーを使う。」
「ほうほう。それで、具体的には何ができるんだ?」
「木々が育つような、自然治癒力のような、回復系の能力。そんな感じだと言っておくよ」
陰陽五行説とは木・火・土・金・水の五つの要素からなる。
この世界でも陰陽五行説の概念が通用するようで、ジャックはほかの属性についても答えてくれた。
木・・・成長する木々。自己強化系の能力。技の例:生命の鼓動<ライフ・ビート>
火・・・燃え盛る炎。自己変化系の能力。技の例:炎の舞<フレア・ダンス>
土・・・母なる大地。安定系の能力。技の例:土の壁<グランド・ウォール>
金・・・輝ける成果。他者強化系の能力。技の例:煌めく旋律<スパークリング・メロディ>
水・・・波打つ大海。他者変化系の能力。技の例:万物の流転<オルター・オール>
「もっとこう、木の根を操って、敵を攻撃とか、そういうのは無いの?」
「うむ、近いものに、土属性に有効な『ルート』があるね。木の根の無数の分岐で、大地を穿つ技だ」
「へえ、かっこいいね。・・・あれ、木なのに『攻撃』できるんだ」
「まあ、そういうとらえ方もできるね」
◇
まだよく理解できていないが、俺はさっそく能力を試そうと思った。
「ルート」
しかし、大地には何の変化も出なかった。
「なぜ使えない?」
「あんた、魔法はその名の通り『魔の法』、つまり、魔界でないと使えないよ」
「魔界って何だ?どこにある」
「おいらさ。おいらは魔物で、魔界とも言える」
まさか、いろいろ考えているうちに午前3時を回っているとは。
建国記念日じゃなきゃ、終わってたね。