異世界とカタルシス
異世界というワードを使えばよいものとする。
ようこそ、異世界へ。
ここは、お助け精霊の存在する世界。
うちのはリアラっていう名前だ。
「なあ、リアラ。」
「なんでしょう、マスター」
「ユーツーバって知ってるか?」
「ああ、動画配信者のことですね」
「そうだな。」
「それが、いかがしましたか?」
「あれってさ、生放送ってやつで、視聴者から投げ銭がもらえるんだ」
「はい、そのようですね。条件があるようですが」
「でもさ、それってズルくない?ゲームしてるだけで儲かるなんてさ」
「配信者は実況者といって、トークとかも面白いんですよ」
「そうだけど・・・」
「何かあったのですか?」
「いや、なんかさ。そういう投げ銭もらってるやつらを見てさ。思ったんだ。
ズルいっていうより、やるせないっていうか。
俺は生放送を見ているのに、あいつは稼いでいるというか。
俺は負けているというか、稼げていないというか。
悔しいというか、嫉妬というか、なんというか。」
「アイドルみたいなものですよ。生産者がいれば消費者がいるものです」
「いや、でもさ、おかしくないか?理解できないね。なんて投げ銭なんかするんだ?
あんなの認められないよ。だって、なんかズルい」
俺は自分がみっともないと思うが、それでも言うのをやめなかった。
「ご主人様、そもそも、動画配信者というよりは、動画投稿者というものは、広告収入を得ているのです。
その収入の形式が変わっただけなのですよ」
「しかしな、それってお金の無駄遣いじゃないか?とりとめのない話に、くだらない話に、金を払うだなんて」
「ご主人様、そんなことを言っては、フィクションや創作というものは、たいてい無駄ということになりますね」
「そうだとも。無駄さ。この世界にとってはマイナスでしかない。ニートや引きこもりの温床だよ」
「それは言い過ぎです。」
「ああそうだ、言い過ぎた。でもな、バランスがおかしいのは事実だと思うぞ。」
「そうなのですか?それはご主人様が週末に動画ばかり見て、なんともいえない惨めさを感じているだけではないのですか?」
「それはそうだな」
「人間というものは、相対的な幸福感を得るものですよ。
ご主人様が見ていた動画配信者は、いつもは下らない、愚かな話を繰り広げられていました。
それを見てご主人様は、その者と比較して、自分は相対的にマシだとか、あるいは自分も同情できるとか、そういう感覚をもっていたのでしょう。
しかしそれが、投げ銭システムの導入によって、イーブンでなくなった。
かの動画配信者のほうが、ご主人様よりも相対的に上だということが明らかになった。
それでご主人様は不快な感情をもたれたのです」
「さすがリアラ、分析がうまいな」
「いえ、ご主人様。」
「そうか、俺はやつの動画を見て、相対的に安堵していたんだ。
やつみたいな駄目人間がいるのなら、俺も俺でいいんだ、と」
「カタルシスっていう言葉がありますが、それも似たようなものかと思われます」
「ふむ。ありがとう、リアラ。話してスッキリしたよ」
「ご主人様のお役に立てて、うれしいです。そして働け、ダメ人間」
俺は少しでも挽回したくて、台所の流し場に大量に溜まっていた食器を洗った。
いつもは親がやってしまっているが、今日くらいはさせてくれ。
会話だけでもいいような気がしてきた。