表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希求のリキト  作者: 硯 蝋 (Suzuri rou)
9/30

Scene 2-2

決戦当日、リキト達は山の陰からグライゴア族が来るのを見張っていた。ビビッドの発言からグライゴア族へビビッドを明け渡す場所は大体、検討が付いていたのだ。

場所はディコニア王国の町の外れで、人気は全く無い。これが、嵐の前の静けさというやつかとリキトは実感していた。

リキト達は、町が一望出来る程高い所で辺りを見張っている。ディコニア兵に動きが有ればすぐに気付けるようにだ。

緊張にリキトの心臓はバクバクと音を立てている。心音で敵に存在を感知されてしまうのじゃないかを懸念してしまう程だった。


「グライゴア族が現れたらまずはブルッシュが奴らに封印魔法を仕掛ける。そして、俺が突っ込んで奇襲を仕掛ける。ルウは俺の後ろで炎の魔法を使う。ピスタチオは予め下で付けておいたマーキングの場所は把握しているか?」


リキトは、それぞれの役割を再確認した。ブルッシュは視線を前方から変えないまま僅かに首を縦に振り、頷いた。ルウもリキトの顔を見てうん、と頷いた。


「うん、大丈夫。何時でもテレポートは出来るし、マーキングした場所に異空間魔法を使ってシャオルを送り込む事も出来る。戦う事も、皆を助ける事も両方視野に入れている。」


前衛はブルッシュ、リキト、ルウの三人で、後衛はピスタチオとシャオルだ。アモレインは別の木の陰に隠れていた。


「この中で、誰かが欠けてしまえば負けてしまう。皆で生きてグライゴア族に勝つしかないんだ。」


リキトは皆に言い聞かせる様に、言った。場の士気を高めたかったというのも有ったが、自分自身を奮い立たせる為だ。


「当たり前じゃない。皆の傷は私が治す。」


シャオルはリキトの言葉に応える様に、強気で言った。シャオルの長い髪が、風に揺れる。


「やるしかないね…。私の、炎の魔法でやって見せる!」


ルウも、決意を固めた様だ。ルウは代々火の魔法が得意なロロ一族の血統だった。ルウが若い頃に、ロロ一族の天敵とも言える水害が国を襲った。そして、生き残ったのはルウだけだと言われている。ルウの腕からは、小さな火がメラメラと燃えていた。やる気は十分だ。


「俺が、一発で終わらせる。一族の、因縁の為にも。」


ブルッシュが言った。確かに一撃で終われば良いが、敵はあの無敵のグライゴア族だ。一撃では敵を負かすことは出来ない前提で戦わなければならない。それは、皆が理解している事だ。

最悪の事態に備えて色々なパターンで敵に立ち向かえる様に打ち合わせは事前に皆でしている。そのどれかが吉と出れば万々歳だ。


リキト達は、常に神経を張り巡らせていた。一瞬たりとも気が抜けない時間が、流れていく。体感時間は研ぎ澄まされ、一分が何時間にも感じる。リキトは下の方を見張りながら、息を飲んだ。


「おい、来たぞ!」


小声でブルッシュは言った。ブルッシュが指を差す方を見ると、ビビッドを連れて歩くディコニア兵の姿がリキトの目に映ってきた。ディコニア兵の数は三人。最悪の事態を考えればディコニア兵も敵にしてしまう可能性も有る。注視する必要が有った。


(ビビッド、待ってろよ。すぐに助けてやるからな。)


リキトは、ディコニア兵に捕らえられたビビッドに心の中で言った。そして、何度もビビッドの名前を心の中で繰り返し呼んだ。ビビッドは、必ず助ける。孤児院で楽しい時も、辛い時も皆で一緒に過ごしたじゃないか。皆で居られるのなら、この世界の何処にだって行く。そこがディコニア王国では無くても良いのだ。リキトはそう、自分に言い聞かせた。


「ビビッド…。」


ピスタチオがビビッドの顔を見て、感慨深そうな目をした。リキトは、何時でも剣を抜く事が出来る様に、ギュッと剣を握り締めた。この錆びた剣で、敵に何処まで通用するか分からないがやってやろうじゃないか。


「ねぇ、あれ!」


続いて、ルウが辺りの異変に気付いた。グライゴア・ホールが現れたのだ。間違いない、もうすぐヴァニタスからグライゴア族がやってくる。後数秒、数分で戦いの瞬間が訪れる。


「遂に、敵のお出ましか…。」


「敵へ突っ込むタイミングは、ブルッシュに任せる。」


「あぁ。」


ブルッシュの後ろ姿しかリキトには見えないが、復讐に燃えているオーラの様なものがメラメラと身体中から滲み出ている。


グライゴア・ホールから出てきたのは、三体のグライゴア族だった。魔族と言えど、見た目は人間のなりと見分けが付かない程だった。


「あれが、グライゴア族…。」


「手強そうだな…。」


これから、沢山の血が流れる事になる。アモレインは、大丈夫だろうか。最後までしっかり、敵に見付からない様に隠れて居られるだろうか。リキトはアモレインの身を案じた。

ディコニア兵と、グライゴア族が接触した。何やら、会話をいている様だ。ディコニア兵は三人、グライゴア族は三体。敵の頭数は三から六だ。


「よし、行くぞ!」


そう言うとブルッシュは木の陰から飛び出して、敵へと向かった。ビビッドを守る為に、己の因縁に決着をつける為に。

リキトも立ち上がり、ブルッシュに続いて飛び出した。完全な不意打ちだ。奇襲は成功するだろう。リキトはそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ