Scene 1-5
リキトは結局、昨日はよく眠れなかった。グライゴア族の手からビビッドを守り、最悪国を出なければならない。
そう改めて思うと、万感が治まらずに眠れなかったのだ。
それに、ビビッドがグライゴア族への生贄として受け渡されるのは五日後だ。時間が余りにも無さすぎる。
リキトは朝早くから学校で、剣を振るっていた。頭が爆発してしまったかの様な寝癖に目もくれず、リキトは剣を振り続けた。
寝ぼけていても、ただ剣を振るだけなのでかえって変に考え事をしなくて済む。感情を無にして修行というものは行えるので、リキトは好きだった。それに、この状況だと特に好都合だった。
「おい、リキト。」
剣術の練習に集中していたリキトは、近くにウェールが居た事に全く気付いて居なかった。苛立っているウェールの表情を見ると、どうやら何度もリキトの名前を呼んでいたらしい。
「どうした?ウェール。」
リキトは、チラリとウェールに視線を配らせ、すぐに剣の方へ神経を集中させた。今のリキトには、ウェールに構ってやる暇など無かった。
「どうしたじゃねぇよ。俺は慈悲深いから、もう一回お前と真剣勝負をしてやろうって思って声を掛けてんだよ。」
「また今度にしてくれ。」
ウェールはまさか、断られるとは思っていなかったのだろう。横でグチグチとリキトに向かって文句を言っている。しかし、リキトにはそれが全く気にならなかった。
「お前、逃げるのか?負け犬が。お前は俺に負けるのが怖いんだろ。」
ウェールはしつこくリキトの横で一方的に喋っている。リキトはこのまま言わせておくのも癪だったというのと、稽古相手が欲しくなった事からウェールと戦ってやる事にした。
昨日と同じルールで、頭の上に付けた風船が先に割れた方が負け。用意周到なウェールは、風船の付いたキャップを二つ持ってきていた。
「よし、行くぞリキト。」
充分な距離を取ってからウェールはリキトにそう言い放ち、間合いを詰めてきた。剣捌きに関しては、ウェールよりもリキトの方が上だ。リキトにはウェールの剣の動きがしっかりと読めていた。
「貰ったぜ!」
そう言うとウェールは、リキトの頭上の風船目掛けて剣を振り翳した。その時の一瞬の隙を、リキトは見逃さずに風の魔法を使った。次の瞬間、ウェールの腕から剣は離れ、宙を舞った。ウェールの手からはすっぽりと剣が抜けてしまったのだ。
「な…。」
「昨日と同じルールなら、魔法は使っても良いんだよな?」
そう言うとリキトは、ウェールの頭上の風船を剣で貫いた。しかし、風船は割れない。間違いなく風船は貫通している筈なのに。ウェールはまた、風船を硬化する魔法を使っていた様だ。
「クソが!」
ウェールの罵声を無視して、リキトとはウェールの頭上の風船に刺さった剣を抜いた。風船は静かにプシューっと音を立てて空気が抜け、萎んだ。
ウェールはそれでも負けを認めずにリキトに向かって罵詈雑言を浴びせたていたが、リキトは全くそれを相手にしなかった。