9.おかえり!
シエリアとレイナルドに背を向け、俺はみんなを連れて走った。
俺はフェリチタを抱え、、アリィはモカと、ルメロスはクララと、八木はブランと手を繋いでいる。
広場を出てどこに避難するべきか考えているとルナン先輩がやってきた。
「ノワ!!何があった!?」
「ルナン先輩!!それが…広場にいたら急に魔物が襲ってきて…今シエリアとレイナルドさんが闘ってます…!」
「わかった!集合場所のリリビア公園にほかの初等部の子達とホリーちゃんとファテリーちゃんがいるからそこまでみんなを連れてってくれ!任せたぞノワール!」
そういうと、ルナン先輩は俺の方にポンっと手を置いて広場へ向かって行った。
ルナン先輩は不思議と安心感を与えてくれた。
見るとアリィが不安そうな表情をしていた。
「不安そうにすんな!ルナン先輩もレイナルドさんもシエもいるんだから!」
「…!わかってるし!…ただ、何もできないのが嫌なだけ…」
それは俺も同じだった。
でも俺はみんなをルナン先輩に任された。
「…ふん!リリビア公園はあっちだから!」
アリィが先頭に立ち走り出した。俺は最後尾だ。
街には人通りがなかった。店は全部しまっている。
さっきまで賑やかだったのが嘘のようだった。
商店街を抜けると目的地のリリビア公園があった。
公園にはほかの初等部の生徒が揃っていた。
俺たちが到着すると待っていたかのように、公園を包むようなドーム型のバリアが出現した。
「皆さんで最後ですよー!魔物さんと遭遇しちゃったグループですね!」
場にそぐわないのほほんとした口調でファテリー先輩が話しかけてきた。
「あの…俺たち…!」
俺が状況を話そうとすると、
「さあ!皆さんこちらへ!みんな待ってますよー!」
ファテリー先輩は俺の言葉を止め、みんなのところへ行くように促した。
状況を説明しなくていいのか?と不思議に思ったが、俺たちはみんなのところに行った。
ほかの初等部の生徒たちは何が起こったのかわかっておらず、ワイワイと楽しそうに話していた。
「ハーイ!おチビさんたち〜!お話聞くですヨー!」
「みなさーん!午前中の遠足どうでしたか〜?」
ファテリー先輩がそう聞くとみんながいろんな出来事を話し始めた。ずっと不安そうな顔をしていたルメロスやクララ、ブラン、モカ、フェリチタも買ったものや見たものの話をとても楽しそうにしていた。
「どうやらおチビさんたちとても楽しんだデスネー!メロスちゃん何か買ったですカー?」
ホリー先輩がルメロスにそう聞くと、ルメロスは買ったジョウロを手に持ち、
「じょうろをみっつかったんだよ!よりみちしたの!」
と、とても嬉しそうに言った。
「寄り道は遠足のごみ?大きいごみ?ですね!」
「遠足楽しんでいるみたいでとっても嬉しいです!そして!なんと!嬉しいお知らせがあります!」
ファテリー先輩がニコニコとしながら話し始めた。
「交渉の末、レヴェルテランドに行けることになりました!今からみんなで行きますよー!」
レヴェルテランドとは島の中にある唯一のテーマパークだ。とても楽しいことで有名でいろんな国から訪れる人がいるくらいである。
「なるほどね。」
アリィがボソッとつぶやいた。
「レヴェルテランドはさっきの広場の反対側にあるから1番安全ってことね。」
なるほど。初等部の子達の遠足を残念なもので終わらせないようにという高等部の学生や先生方の思いが込められているのか、と思った。
だからさっき俺が状況を報告するのをとめ、楽しかったことを言い合うように促したのだとわかった。
現にルメロスたちが本当に嬉しそうにしている。
ファテリー先輩たちから不安は一切感じ取れなかった。それだけルナン先輩たちを信頼しているということだ。俺は改めて先輩たちの凄さを感じた。
そしてテーマパークに向かいながら、ルナン先輩たちの無事を祈った。
「レイナルドさん…」
目の前の怪物を見据えながらシエリアが静かに言った。
「初等部の遠足を台無しにしかけたこのお方に少しお灸を据えてやりましょう。」
いつもニコニコと笑っているシエリアとは違い、鋭い表情を浮かべていた。
レイナルドは少し驚き、笑いながら頷いた。
「いいねいいね!ソル学のお兄さんお姉さんは怖いってこと魔物に教えなきゃだねwwwお兄さん頑張っちゃうよー!」
シエリアが手に魔力を込め、バリアに向かって放つ。するとバリアが凄まじい勢いで爆発し、バリアに張り付いていたオーガを吹っ飛ばした。
レイナルドが二丁拳銃を構え、煙の中に向かって魔弾を放つ。煙が吹き飛び、オーガが苦しそうに叫び声をあげた。
その叫び声に引き寄せられたかのようにさらに2体のオーガが海の中から飛び出してきた。
その瞬間。
紫色の凄まじい魔力が3体のオーガを吹っ飛ばした。
「シエちゃん!レイさん!大丈夫か!?」
「ルナ先輩!」
「ちょwwwルナンwww登場かっこよすぎwww」
「初等部は全員避難できてます!さっさと片付けよう」
「はい!」
「任せて任せて!やっちゃうよー!www」
圧倒的であった。
シエリアが魔法陣を展開し、光魔法で敵を抑え、ルナンとレイナルドが力でねじ伏せる。
戦闘開始から僅か3分にも満たない時間でオーガは倒れた。
「さすがエスポワールwww2人とも底知れないねwwww」
「レイナルドさんも流石でした…百発百中ですね!」
「よし…とりあえず安全を示す信号銃を打とうか。」
ルナンがそう言うと懐から緑色の信号銃を出し、空に向かって放った。
「学校に戻って理事長に報告しよう。付近の安全確認をしてから戻るから先に行っててくれ!」
そう言うとルナンは魔力で周囲の情報を集め始めた。
シエリアとレイナルドは急ぎソル学へと戻って行った。
夕方までテーマパークで遊んだ俺たちは移動魔法陣でソル学へと帰った。
門の前に着くと、ルナン先輩、シエ、レイナルドさんが待っていた。
3人から疲れた様子は微塵も感じられなかった。
「みなさんおかえりなさいー!」
「おかえり!」
「おかえりwwwテーマパーク行ったとかまじ??wwwいいないいなwwww」
「ルナン先輩!レイナルドさん!シエ!ただいま!」
3人とも満面の笑みでむかえてくれた。
初等部の子達がテーマパークの話をし始める。
「るーくんきいてー!あのね!あのね!まほうのね!ショーを見たんだよ!きれいだったの!」
「モカもみたもん!すっごかったの!あとね!あのね!くるまもうんてんしたんだよ!」
「あのね!みずのね!なかにはいってね!ピューってしたんだよ!」
「ノワが迷路で迷子になってなかなか出てこなかったんだよね〜」
ニヤニヤしながらアリィが言った。
「ジェットコースターに初めて乗った……悪くなかった」
皆、思い思いに楽しかったことをルナン先輩たちに話している。
それをとても嬉しそうにきいていた。
「みんな、今回の遠足、楽しかったか?」
ルナン先輩がそう聞くと、初等部の子達はみんなが満面の笑みで楽しかった!と頷いた。
その笑顔は間違いなくルナン先輩たちによって守られたものなのだ。
俺は一抹の不安を感じながらも無事にみんなで帰ってこれたことが嬉しかった。
そして…微かに感じた自分の無力さに目を背けた。