異常な独占愛
寒かった冬が終わり気温が上がってきた。
俺は部屋で薄着になって座る・・・
俺の前には俺には欠かせないアイツが居る。
真っ白の肌は日に焼けてないのを実感させられた。
「なぁ・・・こっち向けよ」
声を掛けた。
首を振ってこっちに一度向くが直ぐに顔をプイッとそらされてしまった。
「なんだよ、まだ怒ってるのか?」
ゆっくりとこっちを向き直した。
「俺の事好きなんだろ?」
プイッ
「照れるなよ」
そう言って頭を掴んで無理やりこっちを向かせる。
無理やり首の向きを変えさせたから首が少し嫌な音を立てた。
「おっとごめんごめん、悪気は無かったんだ」
そう言って手を離すとまた顔を反らされてしまった。
「お前と出会ってからもう1年になるんだな・・・悪かったな、閉じ込めたりなんかして」
俺の言葉に顔を再びこちらへ向けた。
そのタイミングで俺はそいつに腕を回す。
そして、敏感な突起を指先で摘んで引っ張った。
「俺のことだけ見てろよ」
顔を近づけて正面からそう言ってやった。
俺はこいつとこうしている時間が一番幸せだ。
こいつは常に俺の部屋に居る。
繋がったそいつはその範囲から外へは移動できないのだ。
俺の家に来てから外に出した事は無い。
もし外に出すとしたらそれはこいつとの別れの時だけだ。
「ばーか心配すんなって、まだお前の次を見つけたわけじゃないから」
俺は伝えてしまった・・・『まだ』と・・・
出会いがあれば別れがあるのは当然だ。
それでも出会ってからまだ1年・・・
まだまだ俺はこいつを離す気は無い。
俺にとってもこいつは『まだ』手放せない存在なのだ。
「それじゃあ俺は出掛けるから良い子にしてろよ」
俺は立ち上がってそいつの前で着替える。
もう見慣れたのかそいつは俺の着替えに何も言わない。
「じゃあなっ」
そう言って俺はそいつを放置して部屋を出て行った。
外で俺が別のヤツと会っているかもしれない・・・
だけどもそいつは涙一つ流さない・・・
自由になれる時は捨てられる時だと分かっているからだ・・・
今日もそいつは部屋に1人取り残される・・・
「あ~今年も扇風機の季節だよなぁ~」
「またお前自分の家の扇風機に愛の告白してたの?」
「ばーか練習だよ、でもあいつ色白で俺好みなんだよなぁ~」
「やっぱお前変だわ」
男は初任給で買った扇風機を今日も愛している。
彼の愛に人種も国境も種族も関係なかった。
そんな彼の愛に扇風機は首を縦に振る事は『まだ』ないのである・・・
完