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第6話 夢の真実と新たな少女

――ハァ……ハァ……。

 息が切れる……一体どのくらい探し回ったのか知るよしもない。見て回れるところは全部探した。保健室、体育館、美術室やトイレ、そして本来立ち入り禁止である屋上。すべて探したはずなのに、リコの姿が少しも見当たらない。


「リコ……一体どこに行ったんだ」


 リコに好奇の目ばかりが向けられていないことは、今朝から分かっていた。

人は、自分には持っていないものを持っている人を見ると、嫉み、嫌い、そして排除しようとする生き物でもある。

 それは同じ人間でもある、俺にも同じ事が言える。でも、そのことを、そのようなことを。分かっていたはずなのに自分が油断したせいで目をつけられていたリコが連れて行かれてしまった。

 そんな、自分自身に嫌気すらも覚える中。考え込む俺のところに、同じように息を切らし走ってきた高貴の姿が見えた。


「直人! リコちゃんは見つかったか?」


「いや、どこにもいない、探せるところは探したはずなのに……」


 悲しげに顔を下げ、途方にも暮れている俺に、何かに高貴が気づいたかのように顔を上げ、俺に言ってきた。


「おい! 直人、まだ! まだ探してないところがあるぞ!」


 探してないところがある……?いやそんなはずはない、2人で手分けして校内の中や探せるところを探し回ったのに、今更まだ探していないところなどないはず……

 そう思っていた。もう間に合わないのかとまた深く考え事に入ろうとしたとき、自分が先ほど言っていたことを思いだした。……校内の中を探し回った――校内の中を。

 ――瞬間、たった一つ行ってもいなければ、まだ探してもいないところがあることに気づいた矢先、高貴の言葉に言い返す。


「校舎裏……っ!」


 校舎裏。なぜ今まで探しに行こうと思わなかったのかと思うが、直人達が通っている高校の校舎裏は絶妙な構造などにより、見事に死角になっている。

 そのことを今まで気づいていなかった。直人は居場所がわかったところで即座に校舎の裏へと足を向ける。


「高貴! 俺は校舎裏へ向かう! お前は、もしものために先生を呼んできてくれ!」


「わ、わかった! 直人! 気をつけろよ!」


 心配する高貴に、俺は自信ありげに返事を返す。


「大丈夫だ、俺を誰だと思ってる? あの問題人の息子だぞ?」


「あぁ、そうだったな! なら大丈夫だ!」


 後のことを高貴に任せ、俺はリコがいるであろう校舎裏へと急いで足を向ける。

 もしかしたら、自分にだって危険な事になるかもしれない。

でも、俺には守らなければならないものがある。

 守るべきもののために走っている中、俺の頭に突然またあの夢が入り込んでくるーー


 ――入り込んできた夢は、あのとき見た夢とは少し違う形だった。

 ミーンミーン……真夏の蝉の声が五月蠅さを作り出す。そんな五月蝿くも日差しが照りつける中、あの時の自分と似ているが少し雰囲気の違う少年はいた。


「今日も暑いなぁ…」


 真夏の日差しに嫌気がさしそうに、なるも家にいてもやることがなかったのか、外の公園まで遊びに来ていたようだ。


「今日は公園で何しようかなぁ…」


 日頃は家の中で遊んでいる少年にとっては、久々に来た公園で遊ぶ事など皆無に等しかった。そんな、何をしようか悩み、公園を散策しているとトンネルのように上下左右筒抜けている遊具の中から、何やら鳴き声が聞こえてきた。


「クゥ~ン…」


「ん? なんだろう何かいるのかな?」


 興味と疑問の二つを持ちながら、その鳴き声のする遊具の方へと足を向けた。


「何だろう?……」


 興味をもったものの、不安も立ちこめる。

 おそるおそる少年がのぞき込むと、そこにはまだ小さくそしてか弱い子犬の姿がそこにはいた。


「あっ、犬だ! どうしたの? 君はどうして、1人なの?」


 子犬を優しく抱きかかえ、話しかける少年。少年の問い掛けに対し、子犬は少年の匂いを嗅いだ後に「…ッキャン」と吠え返事をする。


「そうか、1人なんだぁ……、でもどうしよう僕の家じゃ飼えないしなぁ……」


 子犬を救って、あげたいが少年の家では犬が飼えないという時事で困惑する。

 どうにかして救ってあげたい少年は、子犬を助けるためある一つの手段を考え出した。


「よし! 今度から僕が食べ物持ってくるからここで、待ってるんだよ!」


 少年の精一杯にして最大の手助け、その提案に子犬も嬉しかったのか「キャン!」と今まで一番大きな声で吠えた。そして少年は子犬との約束を守るため、その日から毎日毎日、欠かさず子犬の元へとやってきた。

 そんな日が続き、一ヶ月がたったある日、少年はあること思いつく。


「そういえば名前をつけてなかったね! 名前つけよう!」


 今まで思いつかなかったのかと、思うが少年にはいい発想だったのはほかでもない。

 名前をつけてもらえることがうれしかったのか、耳とシッポをパタパタさせているーー


 ――その瞬間、俺にはこの夢に違和感を覚えた。

 知るはずのない風景、知るはずのない夢の内容のはずなのに、なぜか懐かしく、そして夢というよりも思い出された記憶のような感覚であった。

 なぜ夢なのに記憶のような感覚がするのか理解できず、混乱していると。

 少年はまた話し始める。


「よし! そうと決まれば、早速名前を考えよう!」


 少年は今までで一番楽しそうに、名前を考えた。

 「ポチ」「ココ」「モカ」「モコ」「リン」など考えられる名前はすべて出したが、少年にはしっくり来なかったのか全部、ボツになった。


「んー、難しいなぁ……」


「キャン! キャン!…」


 難しく悩んでいる、少年に子犬が吠る。


「ん? どうしたの? ……あっ、遊んでほしいのか! いいよ遊ぼう!」


 待ってましたっと言うように、シッポをパタパタとさせ喜ぶ子犬。

 そして、少年は子犬といつものように遊んでいたことをしようと提案する。


「よし、じゃあいつもやっている、遊びをしよう!」



 その遊びはどこか見たことあり、したことがあるような感覚がした。

 否、しかしその感覚は、不確かなものから確かなものへと変わっていった。

 それもそのはず、その遊びは俺が、リコが擬人化した時に本当にリコなのか確認する際に行った、遊びであったからだ。

 すると少年は、ポケットから小さなビー玉を取り出した。


「これをどっちかの足で、隠してね。僕は後ろを向いているから隠したら教えてね。」


「……キャンッ!」


 子犬が返事をすると少年が後ろへ向き、子犬は一生懸命、与えられたビー玉を隠し始めた。


「キャンッ!」


 隠し終えたのか、子犬は少年に向けて吠える。


「ん? 隠し終わったのかい? よーしどっちに隠したのかなぁ?」


 一生懸命に探す少年をよそに俺は、あることに気づく、いや気づいてしまった。


「お、おい、嘘だろッ……その癖は、そんな特徴的な癖は、まさか……」


 身を覚えのある癖、それは小さい頃から一緒に過ごしてきたから分かる癖、そんな特徴的な癖がある子は、俺はあの子以外に知らなかった。

 俺が疑問を浮かべる中、少年は話を進める。


「あははっ! …、君は本当に隠すのが下手だね。そんなに隠してる方向に耳を倒していたら誰でも見つけちゃうよ…。」


 笑いながら少年は楽しそうに子犬と遊ぶ、その姿はなんとも微笑ましい、そんな微笑ましい状況の中、俺は疑問がまた確信へと変わる。

 俺の中に入ってきていた夢の真相が明らかになっていき、また俺の頭の中に夢に近き記憶とも感じるものが入り込んでくる。

 あの時、もっと早く付けて呼んであげていればよかった名前……。

 でも、今ならお前の名前を呼んでやれる。

 初めて子犬に名前を付けてあげようとしてあの時に言ってやれなかった事を、時と夢を超えて言ってやれる。


「やっぱり、その癖は……その癖はやっぱりお前だったのか。ごめん、ごめんなあの時、守ってやれなくて、今度はッ! 今度こそは守って見せるから待っていてくれ――」


 交差する2人の自分、それは、不思議な感覚で懐かしさも与えてくれる。

 交差した2人の自分達の言葉は、合わさるよう混じり合って行く。


 ――「きみの…な、まえは「リコ!」…」


 瞬間、ふと戻ってくる現実、告げられる夢の真実。

 しかし、今はその告げられた真実に疑問を持つ余裕は許されていない。

 急いでリコの元へ、向かう。

 守って見せる。もう二度とあのような悲劇が訪れないように!必ず守って見せる!

 心に強き信念を持って、リコがまっている校舎裏へと向かうーー


 ――校舎裏…、そこは死角になっている。故に誰も来なければ、誰も助けに来てはくれない。

 脅え震えるリコ。そんなことを気にもとめず、浴びせられる嫌みと罵声。


「最近転校してきたばかりか知らねぇけど、あんた最近調子のりすぎなんじゃないの? マジ、ウザいんだけど」


 なぜ、自分がそんなことを言われなければならないのか分からない。

 恐怖や不安が押し寄せてくるばかりで答えは見つからない。

 助けを呼ぼうにも、恐怖により声が出てこない。


「どうしちゃおっかーこの子」「どうやって遊んであげちゃおうかなぁー」


 先ほど、罵声を浴びせていた。少女の後ろにいた2人の子達が声をあげる。

 それを聞いた、この問題の首謀者であろう少女が2人の少女達にある提案を出してくる。


「まぁ、待て2人ともいい人を呼んであるから……ふふっ、楽しみ……」


 不敵な笑みを浮かべながら、いい人と呼んでいるがその不敵な笑みから出てくる言葉にはいい意味としては捉えにはほど遠く思えた。

 そんな笑みを浮かべる中、また一つリコにとっての不安と恐怖が近づいてきていた。


「おいおい、俺と遊んでくれるって言う女の子がいるっていうのは本当かぁ?」


 どこからかひょっこりと現れた身長180は有に超え、それなりのいいガタイの男。

 その男が来たことに気づいた少女は、その男に対し話しかける。


「あぁ、やっと来たんだぁ、あの子だよあのコスプレみたいな格好してる子があんたの相手してくれるって…ふふっ…」


 人の不幸をあざ笑うかのように笑いやってきた男に対し、リコを標的にするように仕向ける。男はその言葉に従うかのように、リコのところに近寄り話しかけ始めた。


「ほぉ、なかなかいい女じゃねぇか、さぁ俺と遊ぼうぜぇ…」


 そう言って、リコに手を伸ばし触れようとした瞬間。

 リコは、勇気を振り絞って伸ばしてきた手を振り払う。


「やめてください! 私に触れていいのはご主人様だけです!」


 振り絞って出した勇気。しかしその振り絞った勇気がリコをまた危ない方向へと向かわせることになる。


「あぁ? 何だてめぇ、ご主人かなんだか知らねぇが俺に口答えしてんじゃねぇよ!」


「きゃっ!……」


 無理矢理に捕まれる、両手首。それにより動けなくなったリコに男は、さらに追い打ちをかけるように言う。


「いっぺん痛い目みねぇとわかんねぇ、みてぇだな! オラァ!!!」


 両手首をつかまれ、避けることすら許されないリコ。

 男からの無下に振り下ろされる拳に、震え脅え身構えるしかなくなっていた。


「……っ!(たすけてご主人!)」


 心の中で助けを求めるリコ。振り下ろされる拳に脅え目をつぶり覚悟も決める。

 しかし、次の瞬間、振り下ろされた拳がリコではなく、何かに当たったような音がした。


 ――パァンッ!――


 そのとき目をつぶっていたリコには、どういう状況か理解できなかった。

 理解できずに、混乱した中。匂いがした。

その匂いは、あの頃に嗅いだ優しいお日様の様な匂い。忘れるはずもないあの時の少年と同じ匂いがした。恐る恐る目を開けるとそこには、あの時助けてくれた少年に似た背中がそこにはあった。

 自分に当たるはずだった、振り下ろされた拳が握られた手のひら。

その手のひらには、何度触れてもらっただろう。何度撫でてもらっただろう。そんな大好きな手のひらは、今自分を守るために使われている。

 短くサラサラとした黒髪、中性的とも取れる顔立ち、高校生の平均的な背丈の少年はそこには立っている。その一つ一つがリコにとっては大好きなものであった。

そんな大好きが詰まった少年にリコは、嬉しくも涙を流しながら声を出す。


「……ご主人ッ!!」


 嬉ながらも涙を流すリコに、俺は振り向き話しかける。


「待たせてごめんなリコ、絶対守るって約束したからな……」


「……ご主人っ…ご主人!」


 泣きじゃくり俺の事を呼ぶリコ。そこに煽るように、入ってくる男。


「あぁ? 誰だお前? あぁ! お前がご主人とかいう奴か、邪魔すんじゃねぇよ」


「あぁ、そうだよ、俺がそのご主人ですよ……」


 男と話をしつつ、なんとなく危ない気がしてリコを後ろへ下がるよう、指示を出す。


「リコ、危ないから下がってて」


「…ご、ご主人…」


 心配そうに見つめてくるリコに、俺は落ち着かせるように語りかける。


「大丈夫だよリコ、すぐに終わらせるから。……っで? そのご主人に何のようかな?」


 まだ不安が取れぬリコを後に、男の方へと怒りの目を向ける。


「何のようかなだと? せっかくその子と遊ぼうとしてるの邪魔すんっなっていってんだよ」


 明らかに俺に対しイラつかせる男に、さらにイラつかせるように話しかける。


「じゃあ、俺が遊んでやるよ……っ来いよ」


「遊んでやるよだとぉ? いい度胸じゃねぇか! その口二度と聞けなくしてやる!」


 先ほどよりも早く、強く振り下ろされる拳。しかし俺は落ち着いた表情でかわす。


「拳の突きが甘いんだよ……」


 振り下ろされた拳をかわした勢いを使い身体を回転し、そのまま華麗に足蹴りを顎へと食らわす。


「……クゥカッ!…」


 的確に顎に当て崩れゆく男、それを見て脅え驚く少女達。


「そんな、あいつが一瞬で負けるなんてマジあり得ない。……あんた何者」


 自分より遙かに大きく強いであろう相手を意図もたやすく倒してしまった俺に、疑問と恐怖を浮かべ問い掛ける。


「こっちはもはやチートみたいな問題人を相手にしてんだ、その辺の奴に負けるわけねぇだろ……」


「えっ、問題人? 問題人ってあの理事長の……っ!?」


 途中まで話そうとしていたところで、あることに気づいた少女は逃げ始める。


「あ、あいつ、あの理事長の息子だよ! やばい! やばいよ! 逃げよう!」


 この問題の首謀者であろう少女逃げるのをみて、後ろにいた2人の少女達も追いかけていく。


「ま、まってよ!」「ちょっ、おいてかないで!」


「あっ、おい、ちょっと待て! お前ら! ……って行っちまったか、全くあの問題人どんだけ有名なんだよ。武勇伝ありすぎだろ。」


 そんなうちの母(問題人)の武勇伝はさておき、後ろへ下がらせておいたリコの元へと行く。


「大丈夫か? 怖くなかったかリっ……うぉっ…」


 名を呼ぶ前に、俺と抱きついてくる。その身体は、かすかに震えていて明らかに怖かったのだろうという事が伝わってきた。

 それに俺は、よく頑張ったなという言葉とともにリコの頭を優しく撫でる。

 リコの震えていた身体は収まり、ふとこちらの方へと顔を上げる。


「やっぱり……あの時の人はご主人だったんですね……」


 リコの発した言葉に俺は、少し驚いた表情で聞き返す。


「リコ、お前その事を覚えているのか……。」


 するとリコは、首を左右に振る。


「いえ、しっかりと覚えているわけではありません。でも、あの時にまだ子犬だった私に身を挺して守ってくれて、そしてリコという素敵な名前をくれた。あの子にまた会いたいと思ったら子犬としてご主人の元へ来てました。」


 夢の中で出会っていた子犬だったリコも、その時のことをあやふやながら覚えているようであることが分かったところでまた一つ俺の中で分かる事があった。

 俺があの時みたものは、夢でない。時代や場所などが違うがそこにいる少年は、俺自身であり実際に起きていた出来事。つまりは「記憶」だと言うことが今分かる事であった。

 なぜ俺にはその記憶があるのか分からない事だらけでもあるし、もしかしたらほかにもそんな記憶があるんじゃないのかと疑問を浮かべてみたものの今は分からないでいた。


「そうか、ごめんなリコ、あの時俺に力がなかったからお前を助けてやることが出来なかった。」


 そう思うと俺は憂い、表情が悲しくなり顔を下げる。


「何言っているんですかご主人! ご主人はあの時だって私のことを守ってくれました。今だってそうです。だから顔を上げてくださいご主人、私はまたあの時の子に……ご主人に会えただけで私は幸せですからっ」


 やさしくすべてを明るく照らしてくれる笑顔、その笑顔はやさしさというのを教え与えてくれるような気がした。

 リコの言葉に、元気をもらった俺は顔を上げリコに言う。


「ありがとうリコ、帰ろう俺たちの家に……」


「はい! ご主人っ!」


 ――帰り道、いつも以上に強く手にひっついてくるリコに動揺を隠せないでいた。

 そして俺に、いいなぁっというような目線を向けてくる高貴もいた。

 高貴は俺がリコと帰ろうと校舎裏から戻ろうとした時に、先生達と一緒にやってきた。

 足蹴りをくらって、地面にのたれている男をみて、高貴は驚きながら俺をみて「またやったなお前」と小声でいって来て「あははっ……」と苦笑いしか出てこなかった。

 そんな、目線を送っている高貴をよそ目に、リコは何か疑問を浮かべた顔をして俺に話しかけて来る。


「ご主人、気になったんですけど、お母様って何者なんですか?」


「えっ? どうしたリコいきなり、母さんの事なんか聞いて?」


 どうしてきてくるのか分からず頭の上に?を浮かべ考えているとリコが付け足すようにいってきた。


「あの子達が、お母様のことを聞いたら逃げていたので何でかなぁっと思って気になりました。」


「逃げた子? あぁ、あれのことか、えっとそれはだなぁ…」


 説明しようとしたところで、割り込むように高貴が説明し始める。


「俺が説明するよ、ひよりさんの事を聞いて逃げ出すのはね、理事長って言うのもあるけど、一番は複数の有段者ってところで逃げたんだと思うよ。」


「ゆう…だんしゃ? 有段者って何ですかご主人?」


 初めて聞く有段者という言葉に疑問を持ち、俺へと質問をする。


「あぁ、有段者って言うのはな、柔道や剣道などの段位認定制度において、段位を取得している人のこと何だけど、その段位を柔道、空手、そして合気道と3つも取得しているのが、俺の母さんこと問題人なんだけど、そんな相手をしている俺がその人の息子だとわかったから逃げ出したんだろうね。」


 ただでさえ、高校の理事長とかいうやりたい放題出来そうな立ち位置にいるのに、その上3つの有段者とかチートかよと毎回思うのには最近なれてきた。

 そんな問題人がなぜそのような名前で呼ばれるようになったかというと、まだ有段者になる前の学生のころに。

 喧嘩を売って来る奴らを片っ端から返り討ちにし、問題行動などを繰り返しているうちに学校の先生や生徒から問題人というあだ名が付けられ、それが今となっても受け継がれている上に、どうやって理事長になれたのかも謎でしかない。

 そんな問題人のことを聞いた、リコは何を思ったのか目を輝かせながらこちらに言ってきた。


「お母様、すごくカッコいいですね!」


 先程の説明でリコが本当に理解できたかはさておき。カッコいいか、カッコよくないかは、リコが楽しいそうだからいいかと思いながら返事を返す。


「そ、そうかカッコいいか…」


「はい! カッコいいです!」


 リコが自信ありげな顔で押し切られ、認めざるを得ないところで家にたどり着いた。


「あっ、もう着いたか、じゃあな高貴、今日はありがとうな」


「おう、いつでも助けになるぜ!」


 頼もしい言葉を継げ、帰って行く高貴に俺とリコは手を振って見送る。

 高貴を見送り、家へと上がろうした瞬間。リコに制服の袖を引かれ蹌踉めき、リコの方へと振り向いた。


「おおっと、どうしたリコ?」


「ご主人。私を助けていただいて本当にありがとうございます。」


 リコに言われた感謝の言葉。その言葉を受け、俺は優しく笑いリコの元へ行きリコを抱きかかえる。


「ご、ご主人!? 一体何を?」


 驚きオドオドしているリコへ俺は優しく語りかける。


「そのことを気にしていたのかリコ? お前は優しいな……。」


「でも、ご主人! 私の! 私のせいで危ないm……っ!?」


 興奮し自分を追い込もうとするリコを落ち着かせるかのように、リコの口に人差し指を押し当てる。


「――言っただろ、守るって。」


「……ご主人っ」


 俺の言葉に、涙を流し始めるリコに続けて話しかける。


「この夢が見せる先でどんなことが繰り返されるか分からない。リコにこの先、危険なことが起るというなら俺はお前を守って見せる……」


「……っ」


 不安そうな顔で見つめてくるリコに、俺は安心させるようにあの言葉を話す。


「不安そうだなリコ。大丈夫……俺を誰だと思ってる? 俺はあの最強無敵の問題人の息子で、お前のご主人だぞ。」


 俺の言葉にリコは、涙で濡れる顔を手で拭い。笑顔で答える。


「……はいっ! ご主人!」


 リコとの話を終え家に入ると、そこには噂の問題人で俺の母親。繰時日和が待っていた。

 しかし記憶はそこまでだった、俺には自分の身に何が起ったのか分からなかった――


 ――またしても夢、しかし、リコの時とは違う夢。また違う場所、違う時代に俺はいた。

 また夢か?と考えるも、夢よりも記憶に近き感覚がある。

 その夢(記憶)には、黒猫とまた少年がいた。


「黒猫とまた俺に似た少年がいるな、いや、俺の知らない俺自身かもしれないな…」


 夢のことをただの夢と思わず、リコの時と同じように記憶だと思い、しっかりと見届ける。

 すると、夢(記憶)の中の少年がしゃべり始める。


「君は、いつもここにいるね? お父さんとお母さんはいないの?」


「ミャー…ミャー…」


 やさしく話しかける少年に、少し警戒しながらミャーと鳴く黒猫。

 そんな警戒している黒猫に、近づこうとして一歩ずつ前に踏み出そうとしたところ。

 黒猫は、驚いたのか突然走って逃げ出してしまう。


「あっ! 危ない!」


 焦って逃げ出して、道路に飛び出してしまった黒猫を追いかける少年。

 向かってくる車に脅えて動けなくなってしまう黒猫に覆い被さるようにして、かばう少年に俺は、届きもしない言葉をまたかける。


「おい! 危ないぞ! 速く逃げろ!」


 しかし、声をかけたときにはすでに遅かった。

 勢いを殺せず、ぶつかる車。

数メートルは飛ばされたであろう少年は地面にたたきつけられるように、ぶつかり転がって行く。


「キャーッ!!!」「子供がひかれたぞ! 誰か救急車を早く!」


 騒ぐ大人、助けを呼ぶ大人、そんな大人達がいる中で少年の腕の中で助かった黒猫が腕の中から出てくる。


「シャーッ!!!」


 少年に心配して近づいてこようとする大人達を警戒し、近づけさせないよう威嚇する黒猫、そんな黒猫の後ろでまだ息のあった少年が黒猫に話しかける。


「あ…ぁ……よかった…無事だったんだね……」


 そう話しかけると、手を差し伸べる少年の手に頬ずりする黒猫、しかし少年の最初で最後の差し伸べられた冷たく冷え切っていた。


「僕のこと……守ってくれて……るの…? 大丈夫だよ…みんな…僕のことを……助けようとしてる…だけだから……だい…じょうぶ…だ…よ…」


 黒猫を安心させるために言った言葉を最後に、先ほど触れられていた手は崩れ落ちていく――


 ――目を開けるとそこには見たことのある天上があった。


「あぁ、覚めたのか、それにしてもまた懐かしいものを見てしまったみたいだな」


 目を覚ました、俺は先ほどみた夢(記憶)を冷静にとらえていると横から何かが飛びついてきた。


「ご主人! 起きたんですね! 心配しましたよ!」


「おぉ、リコごめんな、もう大丈夫だから……ってもうこんな時間か…」


 帰ってきてからの後の記憶がないかと思ったら、辺りが暗くなるまで寝ていた事に気づくと、それに気づいた母さんが話しかけてくる。


「やっと起きたか、もう風呂に入って今日はゆっくり寝な」


 さすがの問題人も、心配したのかゆっくり休めと母親らしい言葉をくれる。

 俺は、母さんに言われたように風呂に入り寝ることにした。


「今日は色々あったな……、さてと寝るか。」「そうですねご主人!」


 寝るかと思ったが、なぜか横にリコがいる事にツッコミを入れる。


「何で俺の部屋にいるのリコ、自分の部屋で寝なさい…」


「いいじゃないですかご主人! 一緒に寝ましょうっ」


 本来なら、どうにかして回避しようとするが今回の兼もあった性かその力もなく、今回は素直に一緒に寝ることにした。


「わかったよ、一緒に寝るか…」


「はい! ご主人っおやすみなさい」


 ――休日の朝、俺のお腹の上に何か違和感があった。

 何かに乗られている感覚、一体誰がと思うまでもなくおそらくリコだろうと思い目を開ける。


「んっ……リ、リコ、重いから降りてくれ……って……誰!?」


 目を開けるとそこには、明らかにリコではない別の子が座っていた。


「……クロ」


「クロ? それが君の名前?」


 無言で首を縦に振るクロと名乗る少女、その少女はどこからやって来てどこから入ってきたのか分からない。

 しかしまたしても唯一分かることがあった。その子にはピョコピョコとある猫耳、そしてヒョロっと生えてシッポがあることが分かった。この子は一体何なんだろう……。




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